マー サイコパスの狂気の地下室

マー サイコパスの狂気の地下室 “Ma”

監督:テイト・テイラー

出演:オクタヴィア・スペンサー、ダイアナ・シルヴァーズ、
   マッケイリー・ミラー、コーリー・フォーグルマニス、
   ジャンニ・パオロ、ダンテ・ブラウン、ルーク・エヴァンス、
   ミッシー・パイル、ジュリエット・ルイス、アリソン・ジャニー

評価:★★




 コメディアンが悪役を演じると、想像以上に役柄の芯に迫ることがある。いつも笑わせてくれるあの顔が狂気に染まり、思いがけない方向から冷気をもたらすのだ。例えばロビン・ウィリアムス、或いはジム・キャリー、若しくはヴィンス・ヴォーン。彼らはコメディから飛び出したとき、作品を自分のものにする独特の悪役像を創り上げる。

 オクタヴィア・スペンサーをコメディアンとするのは間違っているものの、『マー サイコパスの狂気の地下室』が同じ発想で作られた映画であることは間違いない。一度見たら忘れられないスペンサーのひょうきん顔を恐怖の色で満たす。なるほどスペンサーの暴走は、いつもの喜劇演技の枠を軽々飛び越える。スペンサーが暴走すればするほど、観ているこちらは嬉しくなる。

 親子ほど歳の離れた高校生たちに執着する姿が怖い。大量のメール送信。学校までの押しかけ。河原への呼び出し(昭和の匂いだ!)。少しずつ露わになるスペンサーの狂気が最高潮に達するのは、もちろんクライマックスだ。少年少女を薬で眠らせ縛り上げ、その後、アイロンや針と糸、ペンキや包丁を使ってハッスルハッスル。さながら家庭科のお時間だ。スペンサーの相手になる若手俳優たちは…もはや戦意喪失、敵にならない。

 ただ、意外性はさほど感じられない。スペンサーほどの名優ならこれぐらいできるのは当たり前だし、何と言うか、プロットと配役だけでこれぐらいはやってくれるという期待以上でも以下でもないところに落ち着く。それは多分、演出の問題なのだろう。例を挙げるなら、スペンサーの異常性が露わになるのが早過ぎる。少年少女と知り合った直後から、早速ネットで素性を調べ上げ、草葉の陰からこっそり覗いて情報収集。スペンサーが手掛けているのに、何ともまあ、単純な悪役なのだ。

 …となると、この役どころに必要な「哀愁」が感じられない。スペンサーの暴走には自分の学生時代の悲惨な出来事が関係しているのだけれど、スペンサーはほとんど狂った人として描写されるため、恐怖と同時に立ち上がるべき哀しみがまるで見えてこない。彼女は過去が生んだモンスターでしかなく、つまりはそれは作品がB級ホラーの域から出ないことを意味する。

 ジュリエット・ルイスやルーク・エヴァンスのようなクセモノが高校生たちの親を演じるのはそれなりに意味があるはずだ。けれど、彼らはスペンサーの獲物以上の動きを見せない。彼らが高校時代に犯した罪は大層酷く、その点でスペンサーに同情を覚えなければならないはずなのに、だ。スペンサーの家に住むもうひとりの人物や職場の上司に関しても消化不良の感は拭えず、スペンサーが迎えるその結末に後を引くものは何もないのだった。





ブログパーツ

スポンサーサイト



テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

プロフィール

Author:Yoshi
Planet Board(掲示板)

旧FILM PLANET

OSCAR PLANET




since April 4, 2000

バナー
FILM PLANET バナー

人気ページ<月別>
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
最新トラックバック
QRコード
QRコード
RSSリンクの表示
リンク