フェアウェル

フェアウェル “The Farewell”

監督:オークワフィナ、ツィ・マー、ダイアナ・リン、
   チャオ・シュウチェン、ルー・ホン、チアン・ヨンポー、
   チェン・ハン、水原碧衣、ツァン・ジン

評価:★★




 そもそも冒頭、電話越しの祖母と孫娘(どちらも中国人)の会話に嘘がある。祖母は病院で検査待ちであることを隠す。孫はちょっと言葉を交わした他人を友人だと口にする。嘘は『フェアウェル』の話の軸を覆う、重要なキーワードだ。なるほど人は、嘘をつくのはいけないと言いながら、相手を思うことで悪びれることなく、それを繰り返す。

 最も大きな嘘は、余命幾ばくもないことを家族総出で祖母に隠すことだ。嘘というのは厳しい言い方ではあるものの、その結果、ひとつの結婚をでっち上げてしまうのだから、何ともはや。ルル・ワン監督はここに中国の死生観を見る。そしてそこにこの家族のつく大き過ぎる嘘の、思いやりと図太さを見出す。

 それは「個人の命は全体の一部分」という考え方だ。一人で生まれ一人で死んでいく人間のという生き物はしかし、俯瞰で眺めれば、大きな何かの一部。何かとは家族だったり歴史だったり、或いは国家だったり…。その世界では喜怒哀楽の波、若しくはそれぞれの感情の揺れは、ちっぽけで他愛なく、でもだから愛しくもある。あぁ、人生とは…云々。無茶な話をまとめ上げるこの思想が、嘘で覆われた話の軸そのものだ。

 一見この死生観に同調してしまいそうになるものの、終盤の「結婚式」場面で、家族が嘘をつきながら感情を露わにするのを見せられると、「個」の繊細さ・逞しさを信じ、いつ何時もそれを重んじることに美点を感じる者には、ただただ仰々しくさすがにそこまではついていけないと思ってしまう。「共感」が求められるこの物語でそれは、大きな痛手だ。尤も、お涙頂戴が避けられるのは有り難い。

 オークワフィナが喜劇のイメージが強いこれまでとは違う表情で悪くない。彼女は「嘘」に対して敏感になっている役どころ。つまりとても観客に近い位置にいるのだけれど、中国人でありながらアメリカ生まれアメリカ育ちであるそのアイデンティティーに人知れず違和感を感じている空気を、上手に演出している。そのため観る側は固まった空間の中で色々思いを巡らせることができる。

 ただもっと見ものなのは、祖母役のチャオ・シュウチェンだろう。北斗晶を思い切り老けさせたような白髪ばあちゃん。余命僅かなはずなのに誰よりも元気で溌剌、太陽のように明るい。オークワフィナはここでは「月」に徹しているのだけれど、それは「太陽」のばあちゃんあればこそ、活きる。ばあちゃん中心に別の角度から物語を見たらどうだろう。きっともっと陰影豊かになったのではないか。





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