オン・ザ・ロック

オン・ザ・ロック “On the Rocks”

監督:ソフィア・コッポラ

出演:ラシダ・ジョーンズ、ビル・マーレイ、マーロン・ウェイアンス、
   ジェシカ・ヘンウィック、ジェニー・スレイト

評価:★★★




 21世紀になったばかりの頃、東京で迷子になっていたソフィア・コッポラは、あれから20年近く経ち、随分逞しくなったようだ。多忙を言い訳に自分に構ってくれない夫の背後に女の影を感じた彼女は、何とびっくり、プレイボーイの父親と一緒に夫の尾行を開始する。尾行するのに相方が父親って、さすがお嬢様!…って、おっと、自伝ではなかったか。

 父親と娘の素人探偵ぶり。『オン・ザ・ロック』が用意する武器がその画にあることは間違いない。コッポラはまず、ラシダ・ジョーンズ演じる娘の日常を丁寧に描く。幸せな結婚から数年、ふたりの娘に恵まれ、仕事もある。気がつけば刺激から遠く離れた安定生活。このままでいいの?…って、やっぱり贅沢な悩みを抱えるお嬢様だ。ジョーンズの仕事が作家というのが、またお嬢様らしいと言える。

 ジョーンズは一歩間違えば嫌味になりかねない女に親近感を吹き込む。生々しさも投入する。生きたものにする。けれど結局、場をさらうのは父を演じるビル・マーレイだ。マーレイの例のあの顔が車の窓から現れたとき、思わず「出たーっ!」と叫びたくなる。一見いつもと同じ仏頂面。けれど今回のマーレイは、不機嫌さを抑え、軽やかでチャーミングな魅力を振り撒く。

 急所だ。マーレイ演じる父親はプレイボーイ。街に出れば、至るところに知り合いがいて、女の方から彼に声をかけてくる。もはや人間磁石のような吸引力で次々場を華やかなものに変えていくマーレイ。真っ赤なオープンカーが似合い過ぎ。キャビアを乗せたクラッカーがオシャレ。軽やかな言葉の数々がまるで詩のようだ。

 そうなのだ。プレイボーイというと、映画の世界ではチープに描かれがちだけれど、コッポラはその中にもはや尊敬すべき人間力を見出し、その内面に厚みを加えていくのだ。例えば、街中で信号無視をして警官に止められる場面。ここでもマーレイは得意の話術により物の数分で警官を丸め込んでしまう。決して褒められた技じゃないものの、偏屈を封印したマーレイ独特の洒落者的要素が鮮やかに立ち上がる。俺もこういうオヤジになりたいと願うオッサンたちは多いだろう。

 父娘の素人探偵稼業は夫の浮気疑惑の真相を突き止めるだけに終わらない。久しぶりの父娘の濃厚な掛け合いは、いつしか娘が幼い頃に経験した両親の離婚にまつわる影を露わにする。コッポラはしかし、それに対する処方箋を提示しない。無責任だろうか。いや、きっと、それで良いのだ。例えコッポラがお嬢様であり続ける人だったとしても、父と娘の関係は一般人のそれと変わらない。言葉を投げ合うだけで何かが変わる、その瞬間こそを愛でるべきなのだ。





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