イリュージョニスト

イリュージョニスト “L'illusionniste”

監督:シルヴァン・ショメ

声の出演:ジャン=クロード・ドンダ、エイリー・ランキン

評価:★★★




 毒とおかしみがスウィング・ジャズのリズムと共にロマンティックな配合を見せていた、同じシルヴァン・ショメ監督の「ベルヴィル・ランデブー」(02年)と比べると、随分と水分が多い。老人と少女の関係という、それだけで水浸し寸前の題材なのに、あえてそれを乾かす方向に舵を切らない。

 ベースになっているのはジャック・タチが娘に遺した脚本らしく、おそらくタチに対する配慮があったのだろう。帽子からウサギが顔を出すのに代表される、時代に取り残されたようなネタを使い続ける、老いた手品師。老人の技を魔法だと信じ込む、孤独で無垢な少女。彼らの静かな日常に、老人が少女を孫のように思う気持ち、そして少女にとって老人はあくまで魔法使いでしかなく、しかし純真に慕う気持ちが絡まっていく。さらに進むと、時代の流れや人間の成長が生む寂しさや魔法が解けていく気配も感じられるようになる。あまりにメランコリック、あまりにセンティメンタルではないか。嫌いではないけれど、好みでもない。

 …はずだったのに、結局『イリュージョニスト』に魅せられていることに気づく。「ベルヴィル・ランデブー」同様、画が素晴らしく魅力的なのだ。アニメーション映画において最も大切なこの点で、飛び抜けて優れた印象を残す。

 原色が意識的に避けられたその色合いは、老人の状況を映しているかのように沈んでいる。時代についていくことができず、さりとてそれを打開する策もない。長く生きてきた命、残りの人生も多くはないだろう。翳りを帯びた画面はそのまま老人の心の鏡になっている。けれども、決して貧乏臭くはないのがポイントだ。水彩画のような、或いは水墨画のような味を具えている。老人は少女との出会いにより、そしてその勘違いにより、再び生きる活力を思い出す(「取り戻す」のではない)。

 背景はほとんど動かない。代わりに人間や乗り物が動く。それはあたかも絵画の中の人間が命を与えられたような印象がある。人間という生き物が抱えて生きている何かをデフォルメしたようなデザインの登場人物が、自分たちの世界の中で気持ち良さそうにダンスを踊っている。ショメはその尊さを身体の芯の分で感じ取っている。実写映画で言うところの固定カメラを使ったような構図のイチイチに、魂が宿っていることが分かる。カメラを動かすように背景が動いていくショットは数えるほど。しかしそのいずれもが素晴らしいインパクトを残している。静かな画面が劇的に輝く。

 絵を描く際、定規を使って寸分の狂いもなく描き込む手法を時折見かけるけれど、ここにある画はそういうのとは対極にある。直線を描くときでも、多少のズレを気にすることなく、手描きの美しさに賭けている。CGを使うことでは実現できないそれが、温か味の隠し味になっている。月明かりに照らされているような、仄かな光が見える。

 セリフはギリギリまで削ぎ落とされていて、ほとんどサイレント映画の趣がある。ただ、もうちょっと音楽的な魅力が欲しかったかもしれない。「ベルヴィル・ランデブー」ではこの独特の画とジャズが素晴らしい掛け合いを見せていた。バグパイプによるアイルランドミュージックが流れる場面があるけれど、それとのコンビネーションを追求しても楽しかったのではないか。





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