ザ・ピーナッツバター・ファルコン

ザ・ピーナッツバター・ファルコン “The Peanut Butter Falcon”

監督:タイラー・ニルソン、マイケル・シュワルツ

出演:ザック・ゴッサーゲン、シャイア・ラブーフ、ダコタ・ジョンソン、
   ジョン・ヒューズ、ブルース・ダーン、ジョン・バーンサル、
   トーマス・ヘイデン・チャーチ、イェラウルフ

評価:★★★




 ダウン症の青年が主人公で、しかもそれを実際にダウン症の青年が演じる。嫌な予感がする。主人公の内面を美化し、それを拝跪する映画なのではないか。そんな心配をいきなり吹き飛ばすオープニングだ。施設から脱走を図る青年。彼の走る姿に、人間的な小狡さや逞しさがアッという間にスケッチされるからだ。青年の名はザック。彼はプロレスラーになるという夢を自らの手で掴まえようとする。

 青年と同じ名前のザック・ゴッサーゲンが実に堂々たる演技だ。感情を表にぶちまけるような作法は採らない。その弾力感ある身体に喜びや哀しみをどんどん映し出す、素直で伸び伸びした佇まいを貫く。ゆっくりと明瞭としたセリフ回しにはハートが感じられ(ちょっとラッパーっぽい)、しかも湿り気が全くない。根拠のない自信をいっそ痛快に見せる。目指すのがレスラーはレスラーでも悪役レスラーというのが可笑しい。

 ゴッサーゲンが泥棒がバレて窮地に陥ったばかりのシャイア・ラブーフと一緒に旅に出ることになる展開はありふれている。ふたりの距離がどんどん縮まることは容易に想像できるし、ラブーフがゴッサーゲンとの交流を通じて自分を見つめ直すのも型通りだ。ただし、破廉恥にそれを強調する演出ではない。ドラマとコメディの塩梅が適当な上、キャラクター造形を中心に細部がじっくり描かれる。

 ゴッサーゲンとラブーフはどちらも孤独という共通点がある。ゴッサーゲンは家族に捨てられ、ラブーフは最愛の兄を自身の過失により亡くしたばかりだ。とりわけ後者の境遇が効いている。ふたりの関係が兄弟を思わせるそれに見えてくる流れが美しいのは、いつまでも弟だったラブーフが兄のように成長していく様に説得力があるからだ。ラブーフの丁寧な演技の見せ所だ。

 ふたりの旅に途中から施設の職員を演じるダコタ・ジョンソンが加わる展開には若干の引っ掛かりを覚えるものの、その他旅の道中で出会う人物は皆味わい深い。とりわけゴッサーゲンが憧れるかつての悪役レスラーに扮したトーマス・ヘイデン・チャーチが最高だ。ゴッサーゲンを通して己の今を顧みた者たちは皆気づく。人生を複雑にし過ぎる必要はない。これこそがテーマではないか。

 キーヴィジュアルとなるのは、筏に乗ったゴッサーゲンとラブーフ、そしてジョンソンが湿地帯、夕日をバックに穏やかな川を行く画だろう。何でもない光景なのに、それがいかに尊いことか。それぞれが抱える悩みも夢も絶望も希望も自然の中に溶けていく。ゆったりとした時の流れが心地良く、それはまるでこの世の小さな楽園だ。そこではきっと『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』が王様なのだ。





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