失くした体

失くした体 “J'ai perdu mon corps”

監督:ジェレミー・クラパン

声の出演:ハキム・ファリス、ヴィクトワール・デュボワ、
   パトリック・ダスンサオ

評価:★★★★




 いきなり血の匂い、死の匂いが濃いのにギョッとする。一匹のハエにつきまとわれ、画面左下からは血が流れてくる。加えて物語は、圧倒的孤独と行き場のない絶望と虚無に支配されている。『失くした体』は切断された右手が元の身体を求めてパリの街を彷徨う物語。それに見合った気配ではないか。

 ただし、それだけに留まらない。幼き日に両親を失った青年の凍てついた日常を観察し、一歩踏み間違えると死の谷へ落ちていきそうな彼の魂の、それでもその片隅に残っている生への執着を炙り出す。切断された手はその象徴だ。パリの街を彷徨する右手は病院に保管されていた。それが何故突如動き始めたのか。様々な解釈はあるだろう。しかしきっと、どのそれも生の力とは切り離せないのではないか。

 右手の冒険が、妙にロマンティックだ。ネズミやアリ、犬等の小動物と遭遇したり、赤ん坊に触れたり、ありふれた町の乗り物や建物に困惑したり…何か急がなければならない理由があるようで、その健気な動きが気持ち悪くも美しいのだ。ビルの高層部でのハトとの格闘、傘を使っての大ジャンプ等、右手のイメージが物語のテーマを象徴する巧みさよ。

 冒険の最中、少年(今は大人になった青年)の、いや右手の様々な記憶が呼び起こされていく。記憶の中で右手は、少年の身体の一部として当たり前に動き、触れ、体験する。それが右手のエネルギーだ。それを知る右手が、それを失ってしまった元の青年を案じるのは当然のことだ。青年は図書館で働く女に恋焦がれる。同じように右手は、青年の身体に恋焦がれている。ロマンティックなわけだ。

 右手の冒険と打ちひしがれる青年の今が重なり合うときが美しい。もはやこの世の中で生きている意味はない。そう感じているに違いない青年の心の揺れ動きが、大胆不敵かつ極めてデリケートに描写される。そこにセリフはない。あるのは右手とカセットテープだけだ。どこまでも現実的で、けれど希望を諦めてはいない。

 それにしてもフランス製アニメーションは本当に格好良い。設定に凝らなくても、それをカヴァーする想像力がある。画柄を漫画的に処理しなくても、そこに魂を宿らせる創造力がある。冷たい画が並んでも、僅かな体温を見逃さない観察力にも恵まれている。右手の冒険の世界に迷い込むと、きっと誰もが自分の手が触れるものに何かを感じずにはいられないのではないか。





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