アイリッシュマン

アイリッシュマン “The Irishman”

監督:マーティン・スコセッシ

出演:ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、
   レイ・ロマーノ、ボビー・カナヴェイル、アンナ・パキン、
   スティーヴン・グラハム、ハーヴェイ・カイテル、
   ステファニー・カーツバ、キャスリン・ナルドゥッチ、
   ウェルカー・ホワイト、ジェシー・プレモンス、
   ジャック・ヒューストン、マリン・アイルランド

評価:★★★★




 ロバート・デ・ニーロやアル・パチーノは気の抜けた喜劇やB級映画への出演が目立つし、ジョー・ペシは半引退状態。いくらレジェンドたちでも残り少ない俳優人生、余暇を過ごすように温い仕上がりになるのではないかと危惧していた己が恥ずかしくなる。そりゃそうだ。未だ現役バリバリのマーティン・スコセッシが指揮を執るのだ。『アイリッシュマン』は名優たちが最初から最後まで攻めの姿勢を崩さない。映画らしい映画を観たという充実感に満たされる。

 …と言っても、若い頃の彼らの作品のような「動」の魅力は控えめだ。スコセッシらしいヴァイオレンスやユーモア、派手な画作りの場面はある。ただ、一貫して感じるのは「静」の魅力だ。悪名高いマフィア ラッセル・バッファリーノや全米トラック運転組合委員長ジミー・ホッファらとの出会いにより、トラック運転手だったアイルランド系男フランク・シーランが激動の時代に巻き込まれる。シーランが語るそれは、人の情念が入り混じるダイナミックなものでありながら、同時にとても詩的だ。どの画も余白があり、裏には額面通りではない想いが隠される。

 依然マフィア映画に拘るスコセッシに嬉しくなる。マフィアという組織を語るとき、ファミリーだとかブラザーだとか、大凡その仕事と似つかわしくない言葉が使われることが多いけれど、スコセッシはその有り様を掘り下げる。血では繋がらない彼らが、どのようにしてそれ以上の関係を築き、その一方で無下に扱うのか。シーラン、バッファリーノ、ホッファらの肉体はそれを映すためにある。

 …とマフィアの世界を描きながら、思いの外、重要な役割を果たすのが、シーランの本物のファミリーだ。とりわけ娘ペギーとの関係が変わって行く様は、物語の切ないアクセントになる。赤ん坊だったペギーが社会に出ていくまで。その距離感の変容が、シーランの半生にどんな意味を持たせるのか。濃厚でありながら虚無からは逃れられない様が、マフィアの世界に別の角度から翳りを与える。

 出てくるのはろくな死に方をしないヤツらばかりで、だからこそ名優たちは演技で攻める。若き日を演じるために視覚効果が用いられるところこそ、若干の引っ掛かりを覚えるものの(ただし、違和感は一切ない)、スコセッシならではの撮影と編集のリズム、グラマラスな音楽に彩られた世界観の中で、デ・ニーロが微笑み、パチーノが激高し、ペシが睨みを利かせる様は、それだけが最高の贅沢だ。画面を撫でたくなる。

 とりわけ推したいのは、釈放されたホッファ(パチーノ)がバッファリーノ(ペシ)らの怒りを買い、シーラン(デ・ニーロ)が彼を諫めるよう命じられてからだ。静の映画らしく余計な音は聞こえなくなり、誰もが息遣いを響かせ、そして…。場面は変わるし、時間も経過する。出てくる人物も少なくない。それがある結末に向かって、ほとんど一筆書きでもしているかのような気配で描き出されていくのだ。長回しでもないのにワンカットのような佇まいを醸し出しながら。誰も大声を出さない。無駄な動きもない。ただ、それぞれの思惑が乱高下する。これが、映画だ。





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