リチャード・ジュエル

リチャード・ジュエル “Richard Jewell”

監督:クリント・イーストウッド

出演:ポール・ウォルター・ハウザー、サム・ロックウェル、
   キャシー・ベイツ、ジョン・ハム、
   オリヴィア・ワイルド、ニナ・アリアンダ

評価:★★★★




 クリント・イーストウッドが監督を手掛けるのは、『リチャード・ジュエル』で実に40作目になるらしい。俳優として出演することもあるのに、頭が下がると言うしかない。そして数字以上に感嘆してしまうのは、ここ十数年、どんな題材を手掛けても、演出の優雅さが決して失われることがない点だ。イーストウッドは物語の底に沈みがちなコクを、それはそれは魅力的にすくい上げる。

 1996年、アトランタ五輪で起こった爆破テロ事件を取り上げる『リチャード・ジュエル』で言えば、普通なら事件がどうして起こったのか、或いはどのように解決したのかを描くところだろうに、爆破物の第一発見者であったがゆえに容疑者扱いされる警備員の人物像に狙いを定め、我々が生きる社会の抱える闇をじわじわと炙り出す。そのやり方がスマートだ。

 サム・ロックウェル演じる弁護士が「権力は人をモンスターにする」と言う場面がある。イーストウッドはまず、この部分を膨らませる。ここでいう権力の代表は、正義漢溢れる警備員が憧れるFBIだ。一度主人公に目をつけたら執拗にまとわりつくFBIの姿は、権力の濫用に他ならない。それでも主人公は、自分と同じ法執行人だと信じ続ける。主人公が支持する権力が弱者を抑え込む構図の息苦しさが強烈だ(やや単純化が過ぎる嫌いもあるが…)。

 しかし、それをリアルなものにするのは、その背後で正義の拳を振り上げるメディアと、それに操られる市井の人々だ。断るまでもない、今の時代はインターネットの世界を中心に個人を集中的に叩くことで己の自我を確認する愚か者が溢れ返っているけれど、それと全く同じ事態。正義に迷いがなく、それゆえに寛容や冷静と溶け合わない。本人に自覚がないがゆえ、余計にタチが悪い。

 歪んだ社会にストレスを感じる描写が続く。それに立ち向かうにはどうしたら良いのだろう。リチャード・ジュエルの姿はひとつの答えかもしれない。ジュエルは恰幅が良過ぎるからか、その喋り方や動きはスローで、ほとんど愚鈍すれすれの印象を持ってしまうのだけれど、バカがつくほど正直な心は、酷く絶望を叫びながらも、とても強靭だ。弁護士の的確な指示や母親(キャシー・ベイツがさすがの名演)の愛情を無駄にすることなく、自分を決して失わない。

 ゆえにジュエルを演じるポール・ウォルター・ハウザーが果たした役割は非常に大きい。社会の役に立ちたいという思いだけで動く、主人公の純粋無垢な部分が決してバカに見えないのは、ハウザーの身体に通る人間的強さに説得力があるからだ。イーストウッドはとても頼もしくハウザーを見ているはずだ。物語が最後まで上等のコクを維持する理由でもある。





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