月に囚われた男

月に囚われた男 “Moon”

監督:ダンカン・ジョーンズ

出演:サム・ロックウェル、ドミニク・マケリゴット、カヤ・スコデラーリオ、
   ベネディクト・ウォン、マット・ベリー、マルコム・スチュワート

声の出演:ケヴィン・スペイシー

評価:★★★★




 宇宙が舞台になっているのにも関わらず、見るからに低予算の映画だ。SF映画の美術というと塵一つない美しいヴィジュアルになっているのが定番なのに、それとは程遠い生活感溢れるもの。視覚効果がバンバンに取り入れられた最先端技術とも無縁で、合成術はなんだか昭和の匂いがする。月面を走る乗り物は、もはやミニカーにしか見えない。でも、そんなことは鑑賞後の充実感とは全く無関係だ。というか、むしろそのアナログなところも立派な魅力になっている。

 地球のエネルギーが枯渇し、月面でそれを採掘している時代。主人公は3年間、たった一人で月で作業を行ってる。いよいよ任務が終わろうとしているときに、彼が思いがけず、ある人物に遭遇し…というのがストーリーなのだけど、誤解を怖れずに言うならば、『月に囚われた男』においてそれは、さして重要なことではない。月の基地で起こる不可思議な出来事の数々が脳内に突きつける、捉え所のない感覚に浸る、ただそれだけで良い。

 つくづく思うのは、映画というのは何を見せるか、そして何を見せないかが極めて重要だということだ。全てを見せてしまっては想像力が刺激されないし、何もかもを隠してはわけが分からなくなる。観る者が仕入れるべき必要最小限の情報をどれだけ効率的に演出できるか、作り手のセンスに懸かっている。ここではかなり大胆な省略がなされていて、序盤は戸惑うところも少なくない。ところが、これがちゃんと後々に効いてくるのだ。主人公は一体全体どんな人物で、何が彼の身に起きているのか。否応なしにそれを感じ入ることになる。

 浮かび上がってくるのは、イノチを受けた者の、決して記号化することなどできない複雑な感情だ。孤独をまとい、懸命に息をして、絶望に突き落とされ、しかしそれでも何かに賭けていく。残酷な状況下で登場人物が見せる心の機微がなんとも痛ましくて切なくて、でも力強くもあって…。感傷に流されてもおかしくない展開ながら、決してそうならない姿勢も好ましい。

 画面作りや物語の運び方も優れている。展開上サム・ロックウェルの演技に頼らざるを得ないところがあるのだけれど、これが功を奏したのか、ただでさえバケ具合が楽しいロックウェルが変幻自在に表情を変えていく。このときのロックウェルが醸し出すシュールな匂いが大変おつな味わいで、全てが現実なのか、どこからかが夢なのか、どっちともとれる空間が前面にせり上がっている。渇いているようで、どこか艶かしい。そして男はますます切なく迷い込んでいく。男の世話をするロボットの扱いだけはやや都合良い気もするけれど、嫌味に感じられるほどではない。

 監督はこれがデビュー作となるダンカン・ジョーンズで、なんとあのデヴィッド・ボウイの息子だというではないか。ボウイの息子がSF映画とは、なんだかキマり過ぎのようにも思えるけれど、いやいや、ここまで独創的な世界観を持っていることを歓迎するべきだろう。今後どのような方向に進んでも、強烈なその個性を失うような人ではないと思う。新しい才能を発見した喜びに浸る。





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