トゥルー・グリット

トゥルー・グリット “True Grit ”

監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン

出演:ジェフ・ブリッジス、ヘイリー・スタインフェルド、マット・デイモン、
   ジョシュ・ブローリン、バリー・ペッパー、ブルース・グリーン、
   デイキン・マシューズ、ジャーラス・コンロイ

評価:★★★★




 「シリアスマン」(09年)ではユダヤ人文化に切り込み、思い切り個人的な方向に走っていたコーエン兄弟。今度はなんと西部劇である。元々どんなジャンルにも当てハマらない豊潤な語りの映像作家とは言え、なんと振り幅が広いのだろう。映画の記憶が頭にたっぷりと詰まった兄弟は、過去の名作に思いを馳せつつ、西部の大地を自分たちの色に染め上げる。

 コーエン兄弟ならではの話法は至るところに散りばめられている。肌色の土の上に漂うほの暗い空気、唐突にして容赦のない暴力、かと思えばひょいっと顔を出すユーモア、あまりにも鋭利な音の数々、急所になると途端に存在感を増す音楽、大らかなペースを崩すことなく、かつ大胆な省略をキメる編集…。すらすらと出てくる兄弟印は、もはや映画の宝と言って差し支えない。

 しかし、何と言っても、『トゥルー・グリット』における兄弟の注目すべき功績は、ヘイリー・スタインフェルドという名の少女を発掘したところにあると思う。太い眉、大きく広がった鼻の穴、全てを見透かすような瞳…。子どもらしいのはおさげ髪ぐらいで、あとはなんともまあ頼もしい面構え、そして存在感。ジェフ・ブリッジス、マット・デイモンといった大物スターと対峙する場面でも、全く引いていない。いや、それどころかヴェテランたちが少々たじろいでいるように見えるくらいだ。恐ろしい少女が出てきたぞ、これはナメてかかると喰われてしまうぞ。そう感じ取ったのか、グッと踏み止まってスタインフェルドを盛り上げる。

 序盤からスタインフェルドが魅せる。ブリッジスにある依頼をしに行く場面、初対面のデイモンを言い負かす場面、或いは形見を受け取る際に駆け引きを見せる場面。頭脳的で、かつふてぶてしくもある少女の人物像を、作り過ぎることのない表情と柔軟なセリフ回しでアッという間に悟らせてしまう。コーエン兄弟特有の滑稽な味との相乗効果がいきなり爆発するから堪らない。

 僅か二枚の金貨と一頭の馬のために父を殺された少女が酔いどれ保安官と共に犯人を追いかける復讐の物語は、往年の名作西部劇がそうであるように、極めて単純なものだ。だから映像作家としてはそこにどれだけ自分の味を注ぎ込むことができるかが腕の見せ所になる。コーエン兄弟の場合、前述の演出とスタインフェルドだけでも、随分と特異なのだけれど、そこに名手ロジャー・ディーキンスによる撮影が加わると、もはや怖いものはない。荒野の捉え方は美しくも荒々しい。砂埃であっても粉雪であっても、そこに人間の感情を滑り込ませるような野暮な温情は見せない。男たちは揃ってむさ苦しい。過剰に他人の領域に踏み込むことを嫌う。少女には甘ったるさはなく(彼女は一度たりとも涙は見せない)、しかしその寝顔には純なるものがちらつく。彼らと少女が馬を走らせるショットに宿るリズムはなんと表現すれば良いのだろう。嘘のないダイナミズムが横溢し、そこでは銃弾さえも神聖に見える。

 それにしてもコーエン兄弟の笑いは本当に楽しい。クマの毛皮や羊の毛を使ったズボンのような視覚的な面白さもあるし、諦めようとしたところに次の展開が訪れるある場面に代表される、マヌケさの散りばめ方も遊び心いっぱい。一度このツボにハマってしまうと、そこから抜け出すのは不可能だ。そしてそれはもちろん幸福なことでもある。





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