ジョーカー

ジョーカー “Joker”

監督:トッド・フィリップス

出演:ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ、
   フランセス・コンロイ、マーク・マロン、ビル・キャンプ、
   グレン・フレシュラー、シェー・ウィガム、ブレット・カレン、
   ダグラス・ホッジ、ジョシュ・パイス

評価:★★★




 後に怪人ジョーカーとなる主人公アーサー・フレックが笑いを堪えられない場面が何度もある。あることがきっかけで、そういう体質になってしまったのだという。この笑い声が頭にこびりつく。こびりつくというより、突き刺さると言った方が正しいか。笑いの向こうに生きる哀しみが見えるからだ。実際、初めて笑い声を耳にしたとき、目にしたとき、笑っているのか、泣いているのか、判断しかねたぐらいだ。

 ホアキン・フェニックスのジョーカーに対する演技アプローチの奥深さは、この笑い声だけで分かろうというものだ。あなたは人に笑いと喜びを与えられると母に言われたことを糧に大道芸人として励むアーサーはしかし、どれだけ奮闘しても幸せとはかけ離れた毎日だ。むしろ世の無常に絶望することの方が多い。フェニックスはそれを身体全身に封じ込める。げっそり痩せた背中を捉えたショットも、同様に忘れ難い。もはや人間ではなく、何かの虫のようにすら見える。

 『ジョーカー』はアーサーがジョーカーになるまでを描く物語だ。心根の優しさと容赦なく厳しい社会が衝突し、得体の知れないものが生み出される様を分析する。この試みは案外単純に思えるものの、その分析法が映画的現実感をそれはそれは丁寧に扱ってなされるため、決して子ども騙しには見えない。むしろ映画を超えた、我々が生きる世の中にまで平然と迫りくる。

 アーサーは人に優しくしたいだけだった。しかし、クソみたいな世の中では、その純情は無惨に踏みつけにされる。唾を吐きかけられる。芸には笑ってもらえないのに、笑い者にはされる。哀れだ。だから、己の出生の秘密も絡み、一線を越え、遂にアーサーが解き放たれて行く様にホッとしてしまう。街の階段でアーサーが踊る場面の何と美しいことよ。

 そうなのだ。この映画はアーサーに完璧に肩入れしまうことが恐ろしいのだ。もちろん頭では彼の行為が許されないことだとは分かっている。分かっていてなお、彼にシンパシーを寄せてしまうのだ。地下鉄の中、アーサーに絡んできたエリート男たちが鉄槌を下される場面など、ほとんどカタルシスを感じてしまうのだ。

 映画はそういうアーサー=ジョーカーが大衆の心を掴んでしまうところまで描き出す。現代社会を反映させた世界観が混沌の渦に巻き込まれる。報われない大衆はジョーカーを煽る。…とここでハッと気づくのは、その大衆は果たしてジョーカー側の人間かという疑問の存在だ。そして、ジョーカーを真ん中に置いたとき、自分は果たしてどこに立っているのかという恐怖だ。冷静にジョーカーの誕生を見守っていたつもりでも、自分は彼とそんな穏やかな距離を保てる位置で生きていないのではないか。己の中にある矛盾が激しく揺れ動く。ジョーカーに踊らされる自分を感じる。もはやそれが快感なのか不快なのかすら分からない。作り手の観客への信頼があればこそ、の不敵な作りだ。





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