狼たちの処刑台

狼たちの処刑台 “Harry Brown”

監督:ダニエル・バーバー

出演:マイケル・ケイン、エミリー・モーティマー、
   チャーリー・クリード・マイルズ、ベン・ドリュー、リーアム・カニンガム、
   イアン・グレン、デヴィッド・ブラッドリー、ジャック・オコンネル

評価:★★★




 美しく歳を重ねる。あまり男に向けた言葉ではないけれど、敢えて言いたい。マイケル・ケインの歳の重ね方こそ、男の理想形のひとつだろう。若い頃から変わらないブルーの瞳。穏やかな声。英国紳士ならではのしなやかな物腰。弛んでしまったところもさえも、なぜだか優雅だ。親友が殺された事実を知らされた際の無表情が印象的だ。本当に何も表情が変わらないのに、その奥底にあるものが激しい動揺を引き起こしている様がありありと伝わってくる。役者としても人間としても、なんて美しいのだろうとハッとさせられる瞬間である。もちろん役柄の絶望にも偽りは感じられない。

 『狼たちの処刑台』は映画ではお馴染みの自警団的要素が色濃い作品だ。愛する人を殺された者が、警察の無為無策に業を煮やし、自ら犯人に手をかけていく。古くは「狼よさらば」(74年)、最近だと「ブレイブ ワン」(07年)や「狼の死刑宣告」(07年)等が同系列の作品として簡単に例に挙げられる。それらとこの映画が決定的に違うのは、それはもう、ケインが主演しているという点だ。全身からハードボイルドな匂いを気品と共に振り撒きながら、確実に敵をしとめていく。犯人グループ(不良の若者という設定がとても良く効いている)の愚行により、妻の死に目に会えず、友を残忍な方法で殺された哀しみと怒りが、静かにふつふつと身体の中で蠢いている感じが、完璧に捉えられている。根底にはそれまで犯人グループを見て見ぬふりをしてきた自分への悔恨もある。

 ケインが表現するのは「復讐が正義になるのか」というこのジャンルの軸となるテーマだけではない。彼の老体を眺めていると、老いていくことの意味を噛み締めずにいられなくなるし、身体に染み付いた本能的なもの(戦闘本能)の恐ろしさを突きつけられたようなショックを覚える。これはもう身体の動きが綺麗ではないと、絶対に体現できない類の演技だ。名作でも駄作でも、その度に己を磨いてきただろうケインだからこその技。これがあるがゆえ、ありきたりの復讐物に括ることは憚れる。

 ケインがいよいよ爆発するきっかけとなった友の殺害現場を、最初から見せないのが巧い。ケインと同じように警察からの言葉により知らされるその事実に、観る者は大いに想像を張り巡らせる。どんな経緯で殺されたのだろう。どんな方法で殺されたのだろう。考えが膨らみに膨らんだところで、遂にケインが過激な行動に走る。エンジンの吹かせ方が冴えているのだ。

 物語にはケインが住む低所得者向けの公営住宅に潜む社会問題や北アイルランドのIRA問題がちらつく。画面には英国ならではのどんよりとした空気が立ち込めている。舞台がケインの復讐をスマートに飾り立てているのを見逃したくない。銃を手に入れる件だけは腑に落ちないものの、ケインの覚悟が爆発するクライマックスまで、哀しみと怒りが激しいせめぎ合いを見せるのに、目が離せない。





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