ワイルドリング 覚醒する少女

ワイルドリング 覚醒する少女 “Wildling”

監督:フリッツ・ブーム

出演:ベル・パウリー、リヴ・タイラー、ブラッド・ドゥーリフ、
   コリン・ケリー=ソーデレット、アーロ・メルツ、ジェームズ・レグロス

評価:★★




 山奥のとある部屋で少女が監禁された状態で暮らしている。彼女の世話をするのは父親だけ。外へ出たことはない。…なんて書くと、「ルーム」(15年)を思い出すものの、『ワイルドリング 覚醒する少女』はその後、ホラー方向へとかなりぶっ飛んだ飛躍を見せる。これをチープだと嘲笑うことは簡単だけれど、その細部に込められた作り手の思いは、決して見過ごしてはいけない。

 少女は保安官によって救出される。彼女はその後、人間社会に戸惑いながら少しずつ馴染んでいく…というのが予測できる展開だ。ところが、そうなるよりも先に少女の身体に異変が見え始めるのが面白い。父親に打たれていた女性ホルモンの分泌を抑える薬から解放されたこと、そして人間社会に蔓延る悪意が新たなる薬だ。そう、彼女は変態する。

 『ワイルドリング 覚醒する少女』という邦題があまりにも分かり易い。その少女、アナが本来の自分へと戻っていく様、その過程こそが見ものだ。歯が抜け始めることから始まる変態が、妙に官能的だ。すぐ傍らに同じ年代の少年がいることもあり、アナは急激に女となり、同時に獣となる。この際、赤い血が変化の象徴のように撮られているのは、既存の青春ホラーと同じだ。

 アナにベル・パウリーを充てたのが正解だ。所謂美少女というわけではないものの、丸い顔の上できょろきょろ動く丸い目や半開きの唇が動物的だ。野性に染まっていく際のアイデンティティーの揺れには緊張感を注ぎ込む。土により身体が汚れていくのも、それこそが自然なのだと信じさせる。女であり獣であるという難しい空間を生きたものにする。

 自分を知ったアナは事件を起こし、街を混乱させるものの、そこにあるのは恐怖だけではない。何をしでかすか分からない不安定な佇まいの奥底には、虐げられてきた種の哀しみを感じさせるのだ。それが「まともな人間」にも伝染していく。ただ、20年前ならアナを手掛けただろうリヴ・タイラー保安官が抱えるどうにもできない歯がゆさは、もっと突っ込んでも良かったかもしれない。

 ワイルドリングとはアナが父親から聞かされる野獣のことだ。もしかしたらそれはどこかの町に本当に伝わる民話なのではないか。後半の戦いの描写はそのまま昔話できそうな、良い意味での古めかしさがある。アナが最後に見せる姿には、遂に少女が完全に覚醒するカタルシスがある。まるで新たなる種の誕生を目撃したかのようだ。





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