ある女流作家の罪と罰

ある女流作家の罪と罰 “Can You Ever Forgive Me?”

監督:マリエル・ヘラー

出演:メリッサ・マッカーシー、リチャード・E・グラント、
   ドリー・ウェルズ、ジェーン・カーティン、
   ベン・ファルコーン、アンナ・ディーヴァー・スミス、
   スティーヴン・スピネラ、 グレゴリー・コロスティシェフスキー

評価:★★★★




 メリッサ・マッカーシー演じるリー・イスラエルは落ち目の作家で、物語は彼女が400人もの有名人の手紙を偽造することで金を稼いだ犯罪を基にしているのだという。サインではなく手紙というのが、地味ながら不敵ではないか。ただし、『ある女流作家の罪と罰』が狙いを定めるのはイスラエルの犯罪の詳細を事細かに描き出すところにはない。

 …と言っても、犯罪風景にも見入る。キャサリン・ヘップバーンの手紙が高値で売れたことをきっかけに金儲けを思いついたイスラエルは、古い型のタイプライターを買い、紙を古紙に見せかけ、実際の手紙をベースに高額取引の世界に足を踏み入れる。たまたま再会したかつての知人を巻き込み、手口はどんどん大胆になる。ギャンブルにでもハマっていく様を思わせるのが面白い。

 マリエル・ヘラー監督はそして、そうするに至るイスラエルの心理状態を読み解く。かつてはベストセラー作家だった彼女の犯罪の背後には、「欲望」と「孤独」の強力なコンビネーションがある。久しく業界や世間から相手にされていない己の中に目覚めるささやかな自己顕示欲が、猫しか信頼できない無味乾燥な人生の中に入り込み、枯れ果てたイスラエルの心の湖を満たしていくのだ。その様子が可笑しく、恐ろしく、そしてどうしようもなく切ない。

 稼いだ金はもちろん成功の象徴だ。しかし、それよりも重要なのは、偽造した手紙の数々が、間違いなく彼女の手により創り出されたものだという点だ。彼女の言葉こそが手紙を完成させるのだから。才能の枯渇を認められない彼女がそれに縋るのも仕方がない、そう思わせる。だからこそ彼女は、裁判の最中、犯罪を認めつつも、それに手を染めていたときを「最良の時間」と表現する。それでも結局は完全な自作ではない哀しみをまといながら。

 そこでマッカーシーだ。趣味はなく、仕事もなく、金もなく、友達もなく、服はどこまでも地味で、口からは攻撃的な言葉だけが飛び出し、酒と老いた猫だけを信じる女。彼女の圧倒的な孤独がマッカーシーの身体に充満する。マッカーシーのあの大きな身体が、何だかとても小さく見える。そしてその表情には全てを諦めたような、かと言って消えることもできない苦悩が浮かび続ける。心が死んだわけではない。いや、死んでいないから辛いのか。そんな淋しさの説得力たるや。

 さて、この映画の優れたコンビネーションは「欲望」と「孤独」によるそれだけではない。マッカーシーとリチャード・E・グラントのコンビネーションが物語を愉快に刺激する。グラントが演じるのはケチな詐欺師だ。マッカーシーは洒落者を気取っても落ちぶれた風情からは逃れられないグラントに、自身と同じ匂いを嗅ぎ取る。ゆえに気がつけば意気投合、友人になると同時に犯罪のパートナーに選ぶ。そこに暗さではなく軽妙さを注ぎ込んだのが正解だ。マッカーシーとグラントの掛け合いは、ダークな中に咲く宝石なのだ。





ブログパーツ

スポンサーサイト



テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

プロフィール

Author:Yoshi
Planet Board(掲示板)

旧FILM PLANET

OSCAR PLANET




since April 4, 2000

バナー
FILM PLANET バナー

人気ページ<月別>
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
最新トラックバック
QRコード
QRコード
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

Friends
福☆こもろ