英国王のスピーチ

英国王のスピーチ “The King's Speech”

監督:トム・フーパー

出演:コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーター、
   ガイ・ピアース、ティモシー・スポール、デレク・ジャコビ、
   ジェニファー・イーリー、マイケル・ガンボン、ロバート・ポータル

評価:★★★★




 強張った頬。不安を隠せない瞳。落ち着かない佇まい。なんとも頼りない男。彼は後のジョージ6世。このときはヨーク公と呼ばれていた。彼は妻のエリザベスが傍らで案ずる中、父ジョージ5世の代わりに行ったスピーチで失態を見せてしまう。甲高い声が言葉に詰まり、居心地の悪い沈黙がただ流れていく。『英国王のスピーチ』は彼を主人公に持ってきたところがまず、冴えている。歴史的大偉業をなし得たわけでも、派手なプライヴェートがあったわけでもない。どちらかと言えば目立たないかもしれない。それでも彼は確かに英国王となった。威厳を具えて。

 主人公の取り上げ方に倣うように、トム・フーパーの演出が慎ましやかなものになっているのがイイ。英国的な気品が散りばめられていると言い換えることもできる。人前で喋るとどもりが出てしまう男がそれを克服していくという展開は、言ってしまえば相当にベタなのだけど、魅せ方が全くくどくないので、むしろ画面が透き通って見えてくるから面白い。克服の物語の軸にあるのはジョージ6世とそのスピーチセラピスト(この職業に目から鱗)の関係。その絆の強さはいくらでも飾り立てられるものだろうに、そうなりそうなところを寸前で止めているところ、それどころか過剰な盛り上がりを敢えてハズしていくところ、節度があるとはこのことで、なんとも気持ちが良い。派生していくエピソードの数々(家族、王位継承、戦争等の問題)も切り上げ方に美学が感じられる。踏み込み過ぎない美しさに英国の匂い。

 意外と言っては失礼になるけれど、カメラワークや編集も華麗だ。言語障害が物語の真ん中にあるため、画面が単調になってしまう危険があっただろうに、編集スピードを若干早めにしたり、やや上から覗き込むような撮り方を選んだり、抑揚をつけている。吃音の治療過程がヴァラエティに富んでいるのも視覚を刺激する。喉を震わせる。レコードを流す。踊る。運動する。怒る。あの手この手がユーモラス。もちろん美術や衣装も素晴らしい。特に妻エリザベスのファッションが楽しい(中でもツバ付き帽子の数々)。

 そして、どうしても触れなければならないのが、英国スターたちの演技合戦であることは言うまでもない。コリン・ファースによる吃音演技は人間臭い。所謂「障害」のような捉え方ではなくて、人間らしさの延長にそれがあったという解釈になっている気がする。人間ゆえの弱さや怒りが常にベースにあり、その土台が揺るがない。また、ファースもこの人がいなければそこまでの名演にはならなかっただろうと思わせるのが、セラピスト役のジェフリー・ラッシュ。良い意味で力の抜けた演技で、ファースの派手なパフォーマンスをさり気なく支え、時には小技で場をサラッと締める。ファースとラッシュの掛け合いこそ、いちばんの見ものだと言っていいだろう。エリザベス役のヘレナ・ボナム=カーターも出過ぎず霞まずの奥ゆかしさを見せる。ティム・バートンのおもちゃに甘んじていい女優ではない。

 クライマックスはドイツとの開戦を国民に告げるラジオスピーチ場面になる。それまでに蒔かれていた種がいよいよここで花を咲かせる。相変わらず慎ましやかな演出ではあるけれど(マイクの使い方に工夫あり)、ジョージ6世の口元から目が離せなくなっている自分に気づく。分かっているのに、グッと見入ってしまう。スピーチが終わり、国民に向かって手を振るまでの流れもパーフェクト(子どもたちによる本音が可笑しい。ボナム=カーターが見せる一瞬の表情にはやられる)。たとえ欠点はあっても、こんな国王についていきたいと思わせる、これはもう完全なるフーパーの勝利だ。





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