シリアスマン

シリアスマン “A Serious Man”

監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン

出演:マイケル・スタルバーグ、リチャード・カインド、フレッド・メラメッド、
   サリ・レニック、アーロン・ウルフ、ジェシカ・マクマナス、
   アダム・アーキン、エイミー・ランデッカー、フィヴァッシュ・フィンケル

評価:★★★




 コーエン兄弟が創り出す映像は、もはや何も考えることなく眺めているだけで楽しい。彼らが突きつける映像は、決して独善的なものではなく、観客とあたかも対話しているかのような広がりがある。『シリアスマン』のような大変個人的な要素の強い映画でも、柔軟なカメラワークがさり気ない主張をしているのに頬が思わず緩む。計算が行き届いた構図に収められた、登場人物の肩越しのショットが、妙に胸に引っ掛かる。気持ち良いような、不安なような。淋しいような、愉快なような。この掴み所のない面白さは、言葉で説明できるものではない。

 『シリアスマン』を無理矢理ジャンル分けするならばブラック・コメディになるだろうか。何も悪いことはしていないのに、それどころか平凡に暮らしているだけなのに、周りの人間から次々不幸玉をぶつけられ、話が進むごとにヨレヨレになっていく大学教授が主人公。無職の弟が家に転がり込み、妻から離婚を突きつけられ、娘は美容整形に興味を持ち、息子はマリファナを買う金の工面に苦労している。因果応報を軽く吹き飛ばす。この不幸の数々を連鎖的に描き出していないところがユニークだ。雪玉が転がっていくような雪崩式の不幸の描き出し方ではなく、行き先不透明なビリヤードの玉が壁に衝突するように、舞い上がった花火が散るように、不幸のスピードをキープしながら、かつ唐突な並べ方。ひとつの不幸が次の不幸に必要以上の影響を与えないのが、さっぱりとして好もしい。

 もちろんと言うべきだろう、コーエン兄弟はスラップスティックな笑いには興味を示さない。あくまで主人公の置かれた状況が醸し出す滑稽さに賭けている。不幸が積もりに積もっても、結末を用意しないのも気が効いている。冒頭に挿入されるモノクロの悪霊話も可笑しいし、中盤ラビが主人公に話しかける歯に文字が刻まれた男の小話にも惹きつけられる。コーエン兄弟は思いがけないところから角度から物語にウインクをするので、ホント、気が抜けない。

 …と褒めながら、多分この映画の面白さの全てを堪能したとは言えないところが寂しい。コーエン兄弟の映画術を視覚的に感じている分には全く退屈しないのだけれど、物語の流れ、或いは一場面一場面に込められた寓意を全て汲み取ることができたかというと、怪しいものだ。というのも、これは閉鎖的なユダヤ人社会を舞台にしていて(当然主人公もユダヤ人)、それに関する知識を仕入れていないと、いや、ユダヤ人社会で実際に暮らしたことで得られる実感がないと、感じ入ることが不可能に違いない空気が、常に付きまとっているのだ。宗教が映画に入ってくると、途端に物語が観る者を選ぶのはよくあることだけれど、ここでもユダヤ人向けの枠に息苦しさを覚えてしまう。コーエン兄弟としては幼い頃の記憶を掘り起こしたわけで、そういう作りになるのもごく自然なことなのだろう。

 そうそう、主人公を演じるマイケル・スタルバーグがいかにもユダヤ人的な風貌なのには笑った(場面によって印象がガラリと変わる好演)。周りを固める役者も皆無名ながら、ユダヤ人の匂いがプンプン漂う。どこでそう感じるのかは分からないのだけど、配役にも凝るコーエン兄弟は健在だとニヤリとしながら、感心した次第。





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