バイス

バイス “Vice”

監督:アダム・マッケイ

出演:クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、サム・ロックウェル、
   スティーヴ・カレル、タイラー・ペリー、アリソン・ピル、
   ジェシー・プレモンス、エディ・マーサン、
   ナオミ・ワッツ、アルフレッド・モリーナ

評価:★★★




 『バイス』が切り取る最初のディック・チェイニーは、世界貿易センタービルに旅客機が突っ込みツインタワーが崩落する様を見て「チャンスだ」と考える姿だ。そう、チェイニーは普通ではない。ジョージ・W・ブッシュ政権下、副大統領に就任した彼は、ブッシュのヘラヘラ顔の裏で一体どんな動きを見せていたのか、暴き出す。

 話はとりあえず、1963年まで遡る。若き日のチェイニーは後に夫人となるリンの尻に敷かれっぱなしだ。リンがマクベス夫人のごとく動き、当時はブッシュ並(いや、それ以下か)にぼんくらだった彼を政治の世界に送り込むまでに育て上げる。リンを演じるエイミー・アダムスの顔が野心で染まる。男の背後で女が糸を引いている画は、どうしてこうも様になるのか。

 ただ、より面白くなるのはやっぱり、息子ブッシュが登場してからだ。サム・ロックウェル(意外に似ている)扮する息子ブッシュは案の定、どこまでも頼りない。けれどチェイニーにはそれこそが幸運の鍵だったに違いない。青二才でしかないブッシュなら、チェイニーはそうとは悟られることなく彼を操ることができる。そう、チェイニーは巨大なる権力を手にする。

 そこでアダム・マッケイだ。マッケイはチェイニーの真実を炙り出す手法として、コメディの箱を用意する。いくらでもドラマティックに(或いはホラーとして)見せられそうな題材ではあるものの、世界を恐怖のどん底に突き落とした9.11後の展開に、喜劇のリズムを創り出す。話の途中でエンドクレジットが始まり、突然ウィリアム・シェイクスピア劇になり、モザイクやピー音がしらっと入る。ナレーターを務める謎の男の正体も可笑しい。編集技の数々も笑いと密着する。もはや笑い飛ばすしかないと考えたか。それもあろう。けれどそれよりも、チェイニーの暗躍は、笑いの中でこそ輝くとの判断があったはずだ。実に冴えている。

 ここで効いてくるのがチェイニーに扮したクリスチャン・ベールの役作りだ。ファットスーツを使うことも可能だったろうに、実際に体重を増やしたベールの演技法が意味を持つ。若いときから恰幅の良かったチェイニーはしかし、当時はその巨体の密度が実に薄い。人間的充実度が決定的に不足している。ところが、権力を手にするに連れ、良い意味でも悪い意味でもそれが濃いものとなり、いつしかバイスでパンパンになるまでになる。ベールはチェイニーの喋り方や仕草を完全コピーしただけではない。チェイニーの中のバイスを視覚化したのが圧倒的なのだ。

 観る者はいつしか、チェイニーの姿を食い入るように見つめることになる。それは彼の身体の中で蠢く怪物性に吸引力があるからに他ならない。大統領が死ぬのを待つだけの仕事と思われた「副大統領」という役職を最大限活用し、彼は堂々と政界を歩いていく。そしてそう、今のアメリカには、その負の遺産を受け継ぐ者が君臨しているのだ。何を思うべきか、言わずもがな。





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