アンチクライスト

アンチクライスト “Antichrist”

監督:ラース・フォン・トリアー

出演:シャルロット・ゲンズブール、ウィレム・デフォー、
   ストルム・アヘシェ・サルストロ

評価:★




 映像的には素っ裸の男女が出てくる点ぐらいしか共通しているところはないのだけど、反射的に思い出したのはピーター・グリーナウェイ監督による「枕草子」(96年)だった。映像の向こう側に立つ映画作家は「これは芸術だ」と思い切り叫んでいるものの、それがちっとも熱となって伝わってこないところが、とてもよく似ている。もはや観る前から憂鬱な気分を誘発するラース・フォン・トリアー監督が手掛けた『アンチクライスト』は、はっきりと退屈な映画だ。

 オープニングではオヤッと思ったのだ。ランドリールームで愛し合う夫婦と、その隙にベビーベッドから抜け出して窓から転落死してしまう赤ん坊が映し出される。モノクロームの映像にズームアップ、そしてスローモーション。自ら提唱したドグマをすっかり放棄して、事件の発端を視覚を刺激しながら語り掛ける。いかにも映画的な表現で、これならば陰鬱に違いない展開も乗り切れるかもしれない。

 …なーんて甘い考えは粉々に打ち砕かれる。このプロローグが終わった後は、いつものトリアー調が前面に出てくる。子を亡くした哀しみ、そして助けられなかった悔恨により壊れてしまった妻を、セラピストの夫が元の状態に導こうとするのが前半部。夫は妻をあの手この手で癒そうとするも一向に効かず、妻が泣いてばかりなのが頭痛を誘う。これではいかんと夫は作戦を変更、後半部では妻の哀しみと恐怖のベースにある、とある森の山小屋に連れ出すことにする。しかし状況は悪化するばかりで、遂に妻は常軌を逸した行動に走る。セックスと錯乱が繰り返される物語が、どんどんスプラッターの装飾を受けることになるのに唖然とする。生々しい描写も痛い描写も直接的に見せることを身上として疑わないトリアーは、イケイケドンドン、ノリノリで飛ばす。ほとんど露出狂ポルノ的というか、猟奇ホラー的というか。「悪魔のいけにえ」(73年)も負ける、妻がとある部分を切り落とす場面に目が点。所謂ドン引きというヤツ。

 これをホラーとして観られれば、まだいい。問題は登場人物も作り手も哀れにしか思えないところで、過激な表現に走れば走るほど、酷く冷静な気分になっていく自分に気づく。悪魔だとか魔女だとかキリスト教だとかの要素も入り込んできて、色々分析しようと思えばいくらでもできるのかもしれない。意味深に撮られる動物や植物にやたらメルヘンな妄想ショット、或いは修羅の世界を映像化したような画、チャプターの小見出し…。解釈の余地は広い。しかし、もはやどうでもいい。考えたくない。さっさと忘れたい。コレ、ホントに表現者として面白いと思って真面目にやってるんだろうか。自慰行為とどこが違うのだろうか。

 妻をシャルロット・ゲンズブールが演じているのが、どうしても落ち着かない。少女時代から知っているからか、あの彼女がまさかトリアーの手によりこんな姿になるとは…。ひょっとすると長年の映画ファンを意識したキャスティングなのだろうか。トリアーならあり得るだろう。背筋がゾッとする。





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