運び屋

運び屋 “The Mule”

監督・出演:クリント・イーストウッド

出演:ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、
   マイケル・ペーニャ、ダイアン・ウィースト、タイッサ・ファーミガ、
   アリソン・イーストウッド、アンディ・ガルシア

評価:★★★★




 こんなクリント・イーストウッド、見たことがない。頑固や偏屈を魅力的に魅せてきたイーストウッドが、いつになくチャーミングなのだ。「美人コンテストは3階ですよ」と女たちに声をかけ、「配っているのはバイアグラじゃないですよ」とジョークを言い、車を運転しながらカントリーを口遊む。そもそもデイリリーの栽培を仕事にしているだなんて、これまでのイーストウッドからは想像し難い。

 そのイーストウッドがひょんなことから知らぬ間に麻薬の運び屋の仕事をさせられていたというのが『運び屋』の筋立てで、その至ってシンプルなストーリーに立ち上がる気配が面白い。緊張感があるのに牧歌的で、カラッと陽気でありながら時折激しく感情を揺さぶられる。イーストウッドの相変わらずの、何事にも大騒ぎしない落ち着いた存在が世界観の中心にあるからだ。

 ジイサンは運び屋の仕事を成功できるだろうか。マフィアに痛めつけられないだろうか。DEAに捕まらないだろうか。物語の軸が見失われることはない。さほど混んではいない田舎町のアスファルトをのんびり運転しながら、その道すがらで僅かな会話を楽しみながら、サスペンスはじわじわと盛り上がる。笑い交じりの余裕が気持ち良いったらない。

 ただし、より見入るのはキャラクターの背後にある人生だ。イーストウッドはいよいよここに来て、更なる未来に進みながら、過去を僅かに振り返るのだ。役者イーストウッドが本当に久しぶりに手掛けるのは、仕事ばかりで家族を顧みてこなかった男だ。結果、別れた妻や娘から毛嫌いされている。その姿にイーストウッドがこれまでに演じてきた役柄が重なる。

 ここに贖罪という言葉を見つけるのは大袈裟が過ぎるだろうか。仕事に手を抜かない。当たり前だ。仕事を何より優先する。100%否定できる価値観ではない。けれど、人生の終わりが見えてきたとき、生きてきた道のりで感じてきた棘の痛みは簡単には消えてくれない。作中最も胸に残るのは、ジイサンがある理由から仕事を放棄する場面だ。あのイーストウッドが…と感嘆する。

 もちろんジイサンの姿にアメリカという国そのものを見ることも可能だろう。ただ、イーストウッド自身はそんなことは望んでいないはずだ。イーストウッドはあくまで、21世紀に入り便利でも窮屈になった時代で生きるとき、自分ならどう生きるかを追求したのではないか。ジイサンは何かを失い、別の何かを得る。イーストウッドが獲得する新たなる人生観が美しくて堪らない。





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