女王陛下のお気に入り

女王陛下のお気に入り “The Favourite”

監督:ヨルゴス・ランティモス

出演:オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、
   ニコラス・ホルト、ジョー・アルウィン、マーク・ゲイティス、
   ジェームズ・スミス、ジェニー・レインスフォード

評価:★★★★




 いつも唯一人、人間の醜悪な部分を高みから見下ろしていたヨルゴス・ランティモスが『女王陛下のお気に入り』で変貌を遂げる。18世紀初頭のイギリス王室という史実がベースに敷かれたからなのか。それとも三大女優の火花散る演技合戦をもっと近いところで観たいと思ったのか。とにかくランティモスが知性をひけらかすことなく、自分も泥塗れになる。

 史実を基にしていると言っても、飛ばされる発想と想像は実に柔軟だ。歴史に雁字搦めになることなく、アン女王、女官レディ・サラ、そして侍女アビゲイルの関係で不敵に遊ぶ。コスチュームプレイだからと言って高尚なところはなく、王室内部のパワーバランスを極めて下衆に揺さぶるのだ。最近バカみたいによく耳にするマウンティングなんて言葉も思い出す。

 パワー序列はもちろん、アン、サラ、アビゲイルの順。けれど、アビゲイルが人並み外れた野心家だったものだから、その関係はじわじわと毒を持って動き始める。この際、三人のキャラクターの描き分けが極めて優秀なのがポイントだ。アンは絶対的な権力を持ち思うがままのポジションにありながら、いちばん少女っぽい。レディ・サラはしたたかに女王を操りながら、実は女王への確かな情を具えている。アビゲイルは庶民感覚で控え目に動くと見せかけ、僅かなチャンスを決して見逃さないまま、身体を張って上流階級を手繰り寄せる。

 アビゲイルの登場が平穏だったアンとサラの関係をこれまでとは違ったものに変える。そう、これは人間関係のバランスの話だ。ただそれだけで、でもだからこそ滅法面白い。バランスはいちばん居心地の良いものを求めて変わっていくもので、それの過程には当然強引な力が作用する。三人の女たちのパワーバランスはどんな結末を迎えるのか。二転三転を泥臭く描き出すのがミソで、いつの時代も下衆な人間同士の関係性が、過去を舞台にしているのに今の、いやむしろ未来の気配を纏う。

 当然のことながら三大女優が輝く。オリヴィア・コールマンのオバチャンな容姿が思いがけない悲哀を醸し出し、レイチェル・ワイズの意志的な眼差しの奥に弱さが見えたときに電流が流れる。エマ・ストーンの大きなネコ目に宿る人間の怪物性は、実は誰もが抱えるそれだと気づくとき物語は新しい表情を見せる。いずれも適材適所、出過ぎず霞まずの位置を守る。

 ランティモスは、女優たちが創り上げる絶妙のバランスをいかに壊すことなく画面に映えさせるか、それに心を砕いたようだ。ユニークな画面作りは全てバランスの微妙な変化を魅せるために捧げられる。鍵穴から覗いたような、或いは水槽越しに見つめるような撮影。突然のスローモーション。柔らかに目に届く自然光。奥行きが大いに意識された空間設計の中(美術が最高の出来映え)、人物が自在に動き回り、人物の立ち居振る舞いに注目していると、いつしか朽果てんとする人間関係から匂いまで立ち上がる。このバランス、やっぱり癖になる。





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