ファースト・マン

ファースト・マン “First Man”

監督:デイミアン・チャゼル

出演:ライアン・ゴズリング、クレア・フォイ、ジェイソン・クラーク、
   カイル・チャンドラー、コリー・ストール、クリストファー・アボット、
   シアラン・ハインズ、パトリック・フュジット、ルーカス・ハース

評価:★★★★




 我々は低予算で作られた作品をインディペンデント映画と考えがちだけれど、真の意味でのそれは、もちろん作り手のスピリットにそれが宿っているか否か、だ。デイミアン・チャゼルが手掛けた『ファースト・マン』は、その外観こそ堂々たるハリウッド大作でも、その実、思い切りインディペンデントな作りだ。金はたっぷりかけられていても、ゴージャスで派手な画作りには見向きもせず、ひたすらに登場人物の内面を追いかける。これは金の無駄遣いか。それとも最高の贅沢か。

 もちろん後者が正解だ。主人公はあのニール・アームストロング。人類として初めて月面に降り立った宇宙飛行士。彼を描くのであれば、当然アポロ11号のエピソードは出てくる。…とするならミッションで起こった細かなエピソードの数々をつぶさに描き、アクションやサスペンスを豪快に打ち上げるのを想像するのが普通だ。ところがチャゼルは、あくまでこれはアームストロング自身の心の旅路を綴る映画だと考えたらしい。その軸が最初から最後まで一切ブレない。

 スペースシャトルの全体像で魅せる画は極僅か。宇宙飛行が始まってしまえば、シャトル内と地球譲渡の地味なやりとりに終始。タメを効かせる演出はないに等しく、むしろ省けるところはどんどん省いてアームストロングの精神状態にこそフォーカスする。ゆえに月面に星条旗を掲げる画は出てこないし、ミッション成功に沸き返る人々の姿も見当たらない。アームストロングは偉業をひけらかす人物ではなかった。万事慎ましく現実と向き合った人物だった。それがチャゼルの解釈だ。

 宇宙場面は出てくるし見せ場ではある。けれど、それゆえにもっと胸に残るのは家族のやりとりになる。ミッションの度に胸を締めつけられる緊張を強いられる妻。所謂「父親と息子」らしいやりとりのない家庭。アームストロング自身は幼くして死んだ愛娘の思い出に囚われる。チャゼルは一流の映画技術をそれを語ることに用いる。出発直前の家族との会話や地球へ帰還後の夫婦の初対面など、どの場面よりも感じるものがある。

 薄暗いと言って良い撮影が切り取る家族の肖像。駆け抜けていく時代を捉える編集。細部まで緻密に組み立てられた美術と衣装。何気ない動作から生じる音が丁寧に掬い上げられ、控え目でも耳に残るスコアはすぐ傍で囁かれているかのよう。ライアン・ゴズリングとクレア・フォイを中心にした感情を分かり易く表に出さない演技は、生々しさを強調する。結果この映画、大作の風格を十分に具えながら、ドキュメンタリー映画を眺める気分を誘う。

 ドキュメンタリーに見えるということは、アームストロングの旅に寄り添うということだ。彼の喪失は自分のものとして感じられ、自らを奮い立たせるその佇まいに高揚を覚える。家族との掛け合いは心臓を掴まれる感覚、何かを成し遂げる一歩は自分のことのように誇らしい。シャトル内の閉塞感も自分が感じるそれとして浮かび上がる。アームストロングはどんな人物だったか。それを見せるのにこれ以上の方法があるだろうか。





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