イット・カムズ・アット・ナイト

イット・カムズ・アット・ナイト “It Comes at Night”

監督:トレイ・エドワード・シュルツ

出演:ジョエル・エドガートン、クリストファー・アボット、
   カルメン・イジョゴ、ケルヴィン・ハリソン・ジュニア、
   グリフィン・ロバート・フォークナー、ライリー・キーオ

出演:★★★★




 世界で人を死に至らしめるような何かが起こり、生き残った者たちが人里離れた地に身を隠して暮らす。この設定自体は決して新味があるとは言えない。それにも拘らず『イット・カムズ・アット・ナイト』には新鮮な風が吹く。技ありなのはバランスの崩し方だ。

 森深くの家で暮らす父と母、そして17歳になる息子。彼らが食卓を囲む場面の構図とカメラワーク。観客から見て父が左、母が右、息子が正面に座る。このバランスがあまりにも完璧で目に焼きつく。カメラはゆっくり動き、家族がどのようなパワーバランスで成り立っているのかを舐めるように映す。緊張を煽る音楽が被さる。ギリギリの安定感が不敵に揺れる。

 バランスが最初に軋み始めるのは、家に別の家族がやって来たときだ。そちらも父、母、息子の三人家族で、合計6人なら新たなバランスが作れそうなものなのに、それが上手く行かない。表面上は滑らかな関係を築いているようで、けれど歪みは少しずつ大きくなる。速度はゆっくりでも、確実なバランスの崩壊が、緊迫感を増幅させる。

 そして、そこにさらに繰り出されるのが、個がもたらす小さな暴走の数々だ。父親の異様なまでに厳格な立ち居振る舞い。若い母親が醸し出す性的な気配。少年の盗み聞きの習慣。とりわけいちばん正気に近く見える少年の身体から放出される危うさが、バランスの崩壊の速度を上げていく。

 崩壊が始まってからの恐ろしさは、そこいらのホラーとは性質が全く異なる。そこには「人間がいちばん怖い」という現実が横たわる。ただ、この言葉は映画で良く見聞きすることで、別段ショックなわけではない。承知している人も多いはずだ。ただ、これまでのホラーはこの言葉を使うとき、同時に自分はそうはならないという根拠のない確信を伴って、だったと思うのだ。ところが…。

 ところが、ここではその確信が脆くも吹き飛ばされる。自分が同じ立場に置かれたら、どうして同じ行動に出ないと言い切れようとかという思いに支配されていくのだ。そうして気づく話のメタファー。この物語はおそらく隣の人間を信じられない今という世の中の反映だ。911以後の世界そのものではないか。となると、確信を持てない自分は、この世界でどこに立っているのか。人間の恐ろしさを突きつけ、しかもそれを見る者との一体化を図る。真の恐ろしさに支配された映画だ。





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