最初に父が殺された

最初に父が殺された “First They Killed My Father”

監督:アンジェリーナ・ジョリー

出演:サリウム・スレイモック、ポーン・コンペーク

評価:★★★




 いきなり事態は深刻だ。アメリカがヴェトナムから撤退したことをきっかけに、カンボジアで反米勢力であるクメール・ルージュが親米政府に反旗を翻し、プノンペンを制圧。市民を強引に支配し始めるのだ。力を持つ者たちを次々処刑、市民を強制労働させ、内戦のために訓練を強いる。なるほど『最初に父が殺された』はアンジェリーナ・ジョリーが目をつけそうな題材だ。

 ただし、これまでに何本か監督経験を積み上げたジョリーは題材の悲惨さに目が見えなくなり、無闇に泣き叫ぶ方向には走らない。ある大家族のひとりの少女の目を通して歴史を凝視。彼女やその家族の行く末を遠くから見守る姿勢を崩さない。まるで母が少女に乳をあげるように。或いは少女の無垢な寝顔を見つめるように。

 人が人の命を奪う。ジョリーがその行為を辛辣に見ていることはもちろんだけれど、それを表現するための演出力の伸びに目を見張る。緑が太陽の光に輝く東南アジア特有の穏やかな風景に、残酷な行為を映えさせるだけではない。少女の身に何が起こったのか、或いは人々はどんな感情を抱いて歴史に向かい合ったのか。それを掲げることなく、映像表現で勝負するのだ。

 静の場面でも緊張感を途絶えさせない編集。不穏な気配を引き寄せる音楽。余計な説明を省くことで、観る者を少女と同じ世界に誘う法。とりわけセリフが極端に少ないのが印象的、かつ絶大なる効果を上げている。

 誰よりも事態が呑み込めず、誰よりも怖いだろうに、それを顔に出さない少女が目に焼きつく。財産を全て放棄させられ、服から色を剥ぎ取られ、髪は短く揃えられ、平等と言う名の独裁の下に戦力や労働力として鍛えられる魂。ジェットコースターに乗るように彼女が事ある毎に感情を爆発させていたら、途端にメロドラマになっていたかもしれない。ジョリーはそれを回避し、冷静な眼差しの中に絶望を浮かび上がらせる。

 少女の経験する悪夢の中でも地雷に絡んだエピソードが強烈だ。強制的に地雷を方々に埋め、しかしそれが自分と同じ立場である人々の命を奪ってしまう衝撃。身体が吹っ飛び、手足が千切れ、命が一瞬にして消える恐怖。少女が目撃するものとしてはあまりに惨い。

 ただジョリーは、それ以上に鮮やかなイメージを用意している。それが子どもたちの笑顔というのが彼女らしいではないか。人間の愚かさを突きつけ、嘆き、怒り、泣きながら、それでもジョリーは希望を信じている。子どもたちに未来があることを信じている。それを笑顔に託す。ほとんど感情が封じ込められた世界だから、それが弾けたときの、空気を一変させる力に魅了されずにはいられない。ジョリーが子どもに甘いわけではない。子どもを信じる強さを持った人、それがジョリーということだ。





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