ビューティフル・デイ

ビューティフル・デイ “You Were Never Really Here”

監督:リン・ラムジー

出演:ホアキン・フェニックス、ジュディス・ロバーツ、
   エカテリーナ・サムソノフ、ジョン・ドーマン、アレックス・マネット、
   ダンテ・ペレイラ=オルソン、アレッサドロ・ニヴォラ

評価:★★★★




 極端に情報量の少ない映画だ。リン・ラムジーは説明を嫌い、画と音楽の力で勝負する。舞台の大半はニューヨークの夜。そこである事件に巻き込まれたひとりの男の姿を通して、アメリカの現実、がらんどうの心を捉えてみせる。

 『ビューティフル・デイ』は話の筋を追うことに熱心になるべき映画ではない。どれだけ細部を分析しても、物語の全容は推測の域を出ないだろう。元軍人で、人探しを生業にしている男が、ある少女を助け出し、けれどそこから事態はさらなる暗転を見せる。それ以上でもそれ以下でもない。

 …にも拘らず、男の姿は強烈に瞼に焼きつく。男は言わば、「虚無なるもの」が姿形を得たような存在で、過去の亡霊につきまとわれながら、ただ静かな呼吸を繰り返しているに過ぎない。したがって男の勇姿なんてものは見当たらない。ビニール袋を被り、口にナイフを当て、こめかみにピストルを向ける。それが日常の男。

 あぁ、これがラムジーの感じる、今という世の中だ。その絶望と哀切が画面に充満する。溢れる暴力からは逃れられず、でも逃れからと言って、息をしているからと言って、何の意味があるだろう。ホアキン・フェニックスは一貫してその哀れを肉体に宿し続ける。すっかり白くなったもじゃもじゃの髭に真っ赤な血が光る。その後ろ姿は暴力的でも、狂気すら見当たらないではないか。

 どの場面も脳内で踊り狂うように鳴り響く音楽と共に胸に残るけれど、中でもフェニックスがある遺体をビニール袋に詰めて湖に沈める場面の幻想的気配は胸を打つ。どうしようもない空虚と共に。また、ある死にゆく男と共に「I've Never Been To Me」を口遊む場面も…。あぁ…。

 ラムジーは今を嘆き、そこで終わるのだろうか。そう思ったところで僅かに光が射す。若い命が思いがけず、美しい日和を告げる。彷徨える魂が血塗れの現実の中で触れる、唯一の温かなものがこれだ。それだけ?確かにそれだけでは頼りないか。でもそれだけが何かの始まりになる。ラムジーのギリギリの人生観を面白く観た。





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