ファントム・スレッド

ファントム・スレッド “Phantom Thread”

監督:ポール・トーマス・アンダーソン

出演:ダニエル・デイ=ルイス、ヴィッキー・クリープス、
   レスリー・マンヴィル、カミーラ・ラザフォード、
   ジーナ・マッキー、ブライアン・グリーソン

評価:★★★★




 ポール・トーマス・アンダーソン監督のラヴストーリーと言うと「パンチドランク・ラブ」(02年)を思い出すものの、より血縁関係を感じるのは、同じくダニエル・デイ=ルイスが主演した「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(07年)だったりする。いや、もちろん外観はまるで異なるのだけれど、人間の内に秘めた暴力性や怪物性に通じるものがあると思うのだ。『ファントム・スレッド』は50年代ロンドンのファッション業界を舞台にしているだけあり、上品な匂いが香水のごとく香るのだけれど…。

 ファッション界の中心に立つ仕立て屋と彼のミューズとなる若い女。アンダーソンがふたりを通して捉えてみせるのは様々な官能だ。マーク・ブリッジスによる衣装の数々は期待通りエレガントだ。主張が強過ぎる色は極力避けられ、まるで人と一体化したような柔らかなドレスが次々登場。装着する人によりドレスが表情を変えていく面白さはファッションの醍醐味に他ならない。

 ただし、アンダーソンが獲得する官能はそこに留まらない。人間の肉体から放たれるそれの艶めかしさも同様に獲物となる。人物のアップが多い。いや、皮膚のクローズアップが多いと言った方が良いか。産毛が見えるくらいに近寄り、その奥底に眠る欲望を官能に結びつけてみせるのだ。仕立て屋がミューズの口紅を拭う場面のエロスを筆頭に、まとわりつくようなそれが充満する。ヴィッキー・クリープス(顔の造詣はジュリアン・ムーア風)の決して抜群ではない体型が大きな意味を持つ。デイ=ルイスの物言う指の動きにも注目したい。

 人間同士の駆け引きから来る官能も忘れられない。仕立て屋とミューズなどと言うと、妙にファッショナブルに聞こえるものの、要は仕立て屋は女を仕事の道具として気に入り、女はその状態を受け入れるということだ。そんな状態から始まった関係が急激に変態していくところが面白い。官能は予期せぬ状況下に置かれたとき、不意に顔を出すものでもあるからだ。

 そうした官能を積み重ねると、次第にその表面に歪みが浮かび上がるではないか。人間の本能的な部分で惹かれ合う男女はそんなとき、自分でも思いがけない行動に出ることがある。先に仕掛けるのはミューズだ。あるものを手に入れ、それを仕立て屋に差し出す。仕立て屋が彼女を変えさせたのか。それとも彼女に元々その素養があったのか。恐ろしくもありながら、どうしようもない愛の熱が感じられる。ふたりの傍らにいつも仕立て屋の姉がうろついているのも、更なる刺激剤になる(レスリー・マンヴィルの名演を見逃すな)。

 結末が何ともまあ、美しく格好良くキマッていること!官能というものは結局、愛なくして成立しないものなのか。再びミューズが仕掛け、それに仕立て屋がどう反撃を見せるのか。そういう展開に持ち込むと見せかけて…。気がつけば物語には妖気が充満。全てを出し切ったふたりが選ぶ愛の形…、あぁ、そのロマンティックな壊れ方に魅せられる。





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