君を想って海をゆく

君を想って海をゆく “Welcome”

監督:フィリップ・リオレ

出演:ヴァンサン・ランドン、フィラ・エヴェルディ、
   オドレイ・ダナ、デリヤ・エヴェルディ、ティエリ・ゴダール、
   セリム・アクグル、オリヴィエ・ラブルダン

評価:★★★




 「フローズン・リバー」(08年)の不法移民は、車のトランクの中で息を殺しながら凍ったセントローレンス川を渡った。「闇の列車、光の旅」(09年)の不法移民は、列車の上で生活しながら新しい人生を夢見た。そしてフランス映画『君を想って海をゆく』の不法移民は、荒れ狂うドーバー海峡を泳ぎ切ろうとする。密入国問題、難民問題はもはや、世界規模のテーマだ。

 イギリスへの密入国を狙う主人公がまだ、17歳のクルド人少年だというのが胸を打つ。幼さの残るビラルという名の少年は、イラクからフランスまで4,000キロも歩き、しかも今度はフランス最北端の町カラを出発地として、10時間かけて海を渡ろうというのだ。泳ぎの経験など、まるでないというのに。ビラルが習得する泳法はクロールだ。一掻き一掻きに想いが宿る。反射的に「イースト/ウエスト 遙かなる祖国」(00年)を思い出す。あのときのセルゲイ・ボドロフ・ジュニアの泳ぎの、あぁ、なんと力漲るものだったことか。それとは比べ物にならない、ヘタクソな泳ぎだけれど、根っこの部分では繋がっている気がする。

 ビラルは何のために海を渡ろうとするのか。恋人に会うためというのがグッとくる。いや、人生を賭けて家族のために危険を冒すその他大勢の難民を思うと、甘っちょろく感じられるかもしれない。しかし、思い出すべきだ。誰でも最初に本気になったとき、そこには確かに少年と同じ想いがあったはずなのだ。今やらなくていつやるのか。少年が全てを捧げる、その本気の想いをバカにすることなど、到底できない。演じるフィラ・エヴェルディは均整の取れた身体つきで、柄に合っている。

 だからプールで働くヴァンサン・ランドンも彼に救いの手を差し伸べる。プールで指導中に出会ったことをきっかけに、少年に熱心に泳ぎを教えるランドン。そうすることで離婚問題で塞ぎ込んでいた心に何かが灯る。ランドンがとにかくイイ。ハンサムじゃないし歳も食っている。しかし、それを補って余りある情感はどうだ。無骨な佇まいに人生を感じさせる(特に目と指に注目)。ラヴシーンの息遣いも色っぽい。こういう男は女が似合う。それもとびきりの美女が。男の内面が少年の強い想いと呼応していく感じも素晴らしく良く出ている。

 こうした物語の中から社会問題がシビアに克明に見えてくる。難民間の確執や密入国の方法、その取り締まり方といったものが、生々しく描写されていくのに息を呑む。そして目に留めるべきは、難民問題への向き合い方だ。フィリップ・リオレ監督は明らかに怒っている。人権云々、或いは法律云々とは別のところで、ハートの部分で怒っている。傍観するしかない苛立ちを抱え、それを上手に咀嚼できない。行政への怒り。関わりを避けようとする者への怒り。そして無力な自分への怒り。ここに出てくる難民問題の担当者は「排除」という言葉を躊躇いなく使っている。

 そうしたテーマへの思い入れが強過ぎたのだろうか。結末にはガッカリした。問題意識の高さが物語のカタルシスを奪い、残酷な現実が冷たく浮かび上がっている。映画の魔法をもっとふりかけても良かったと思う。





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