ナチュラルウーマン

ナチュラルウーマン “Una Mujer Fantástica”

監督:セバスチャン・レリオ

出演:ダニエラ・ヴェガ、フランシスコ・レジェス、ルイス・ニェッコ

評価:★★★★




 本当にこれは21世紀の物語なのか。人が人を愛するのに、理由なんて要らない。皆分かっているはずなのに、その対象が同性だというだけで、こんなに冷酷になれるものなのか。トランスジェンダーのヒロイン、マリーナが愛する人と踊ったり食事したり微笑み合ったりする…そこに答えは出ているではないか。

 チリ映画『ナチュラルウーマン』は人の、社会の不寛容を炙り出す。暴力的な反応となる場合もあるものの、多くは「善良」を装ったそれであるから質が悪い。一見友好的な佇まい。けれど、付け焼刃のそれで不寛容の棘の先端が丸くなるわけがない。マリーナは哀しみに浸ることも許されず、アイデンティティーをデリカシーなく傷つけられる。

 マリーナはしかし、ここで痛みをぐっと堪える。物語は愛する人を亡くすところから始まるけれど、それ以前にも「不寛容」は山ほど経験しているだろう。心も身体もそれを覚えている。ちょっとやそっとの「残酷」を自分の中に、むざむざと招き入れはしない。己が己であるための領域はどんなときも守られる。

 もちろん不寛容な残酷は積み重なる。けれどマリーナは決して涙を見せることなく(涙を落とす場面は終幕のある一場面に限られる)、前を向き続ける。愛する人と血が繋がる者から、警察から、病院から冷徹な視線を浴び、非人間的に扱われながら、颯爽と街を行く。その際、決して力で相手をねじ伏せようとはしないのがポイントだ。その気配は逞しく、力強く、美しい。人間としての幹が太い。

 ダニエラ・ヴェガはマリーナに命を吹き込む。鼻と顎が立派で、肩幅にも男を感じさせながら、やはり彼女は女だ。何と言っても、目が良い。睨みつけるわけでもないのに、その瞳の奥から、あらゆるものを吸い込む磁力を発する。吸い込まれた先には、それでも愛することをやめないハート、人間的豊かさがある。ヴェガはマリーナの熱を完璧に捉える。

 『ナチュラルウーマン』は依然変わることのできない人間を嘆きながら、しかしマリーナの人間性を通じて、希望にもウインクする。変われない痴れ者は放っておくしかない。しかし、そうでない者は殻を脱ぎ去り、何回でも新しく生まれ変わることが可能だ。マリーナは辛い体験を経て、また、新たな自分に出合う。そしてそんな彼女を愛する人もきっとまた、どこかにいるはずなのだ。幾度と流れるマリーナの美しく響く歌声がその証拠だ。





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