幸せなエマ・ストーン

※この文章は、アカデミー賞専門サイト OSCAR PLANET のために書いたものの転載になります[先行公開]。




 前シーズン、エマ・ストーンが主演女優賞を受賞したとき、「あぁ、なんて幸せな女優なのだろう」と思いました。オスカーを手にしたのですから、幸せであることは誰の目からも明らかですが、受賞作が「ラ・ラ・ランド」(16年)だったことが、彼女の幸せを何十倍にも押し上げていると思うのです。「ラ・ラ・ランド」が良くできた映画だから?もちろんそれもあります。でもそれ以上に、「ラ・ラ・ランド」がストーンにとっての正真正銘の代表作であることが大きいと思うのです。

 代表作によりオスカーを獲得する。これは案外難しいことです。タイミングの問題が大きいのでしょうが、その俳優の決定打によりオスカーを逃し、数年後、その俳優の名詞とは言えない作品により受賞に漕ぎ着けるというのはよくあるパターンです。長年オスカー逃し続け、遂に功労票的意味合いの支持を得て受賞するパターンもあります。

 例を挙げましょう。例えばニコール・キッドマンは「めぐりあう時間たち」(02年)で主演女優賞を受賞していますが、キッドマンと聞いてこのタイトルを思い浮かべる人がどれだけいるでしょうか。キッドマンなら「誘う女」(95年)「ムーラン・ルージュ」(01年)「アザーズ」(01年)あたりが上位に食い込むはずで、「めぐりあう時間たち」はもしかしたらトップ10にも入らないかもしれません。別に「めぐりあう時間たち」のキッドマンが優れていないというわけではありません。ただ、キッドマンの代表作として人々の記憶には残っていないということです。

 他にも挙げましょう。シャーリズ・セロンなら「モンスター」(03年)よりも「マッドマックス 地獄のデス・ロード」(15年)で愛されていくことでしょう。サンドラ・ブロックなら「しあわせの隠れ場所」(09年)ではなく「スピード」(94年)や「デンジャラス・ビューティー」(00年)「ゼロ・グラビティ」(13年)が人気のはずです。メリル・ストリープは「マーガレット・サッチャー鉄の女の涙」(11年)で二度目の主演女優賞を手にしましたが、ストリープからこのタイトルを思い浮かべる人は数少ないはずです。

 ジュリア・ロバーツは「エリン・ブロコビッチ」(01年)でオスカー女優になりました。そして「エリン・ブロコビッチ」は確かにロバーツの代表作と言って良いでしょう。でもそれ以上に人々が愛するのは「プリティ・ウーマン」(90年)のロバーツです。ハル・ベリーが「チョコレート」(01年)でアフリカ系(厳密にはハーフ)として初の主演女優賞に輝いた意義はとてつもなく大きなものですが、それでも映画ファンは「X-MEN」(00年)シリーズのストーム役の彼女を愛するでしょう。リース・ウィザースプーンは「ウォーク・ザ・ライン君につづく道」(05年)で頂点に輝きましたが、それも当然の演技でした。けれど、ウィザースプーンと言ったら、世間では「キューティ・ブロンド」(01年)のはずです。ジェニファー・ローレンスは「世界でひとつのプレイブック」(13年)でオスカー女優になりましたし、確かにこれが現時点での彼女のベストパフォーマンスかもしれません。とは言え世間が見たいローレンスは「ハンガー・ゲーム」(12年)シリーズの彼女に違いないのです。

 オスカー候補に挙がるくらいですから、どの俳優たちも優れている演技を見せていることは間違いない。けれど、その演技でオスカーに輝いたとしても、それがそのまま世間で愛されていく補償にはならないということです。このことを考えるとき、いつも思うのはグレース・ケリーとオードリー・ヘップバーンです。ケリーは言わずと知れた往年の大女優。彼女は「喝采」(54年)のシリアス演技でハリウッドのプリンセスになりました。でもケリーが活躍した1950年代から半世紀以上経ち、依然愛され続けるのは「ダイヤルMを廻せ!」(54年)「裏窓」(54年)「泥棒成金」(54年)といったアフルレッド・ヒッチコック映画のケリーです。ヒッチコックはケリーを「雪を被った活火山」に例えたことで有名ですが、その通り、ケリーがケリーのまま輝いたのはヒッチコック映画だということです。逆に同時代に生きたヘップバーンは、誰も目から見ても代表作である「ローマの休日」(53年)でオスカーを手にしています。ヘップバーンを思い出すとき、人々の目に浮かぶのはアン王女の姿でしょう。スペイン広場でジェラートを食べ、真実の口で絶叫するアン王女。ヘップバーンはこの作品でオスカー史に名を刻み、かつ人々にこれからも愛されていくのです。

 その俳優がその俳優本来の魅力で輝く。それは所謂スター映画、スター演技である可能性が高いでしょう。けれどこれは、評価に結びつき難いのが現状です。それゆえ代表作以外でオスカーを手にする俳優が多くなるのです。別に人々はオスカーを受賞したからと、それを理由にそのスターを愛するわけではありませんから、多くの人にとってこれはたいした事実ではない。けれど賞レースウォッチャーの目から見ると、正真正銘の代表作でオスカーを受賞するというのはこの上ない幸運であり、そういう意味で、ストーンは本当に幸せな女優だと思うのです。





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