エル ELLE

エル ELLE “Elle”

監督:ポール・ヴァーホーヴェン

出演:イザベル・ユペール、ロラン・ラフィット、アンヌ・コンシニ、
   シャルル・ベルリング、ヴィルジニー・エフィラ、ジュディット・マーレ、
   クリスチャン・ベルケル、ジョナ・ブロケ

評価:★★★★




 いきなり始まるレイプ場面。ネコの冷たい視線を受けながら、イザベル・ユペールが抵抗虚しく覆面男に身体を攻撃される。あぁ、無情。あぁ、何という哀れ。…とそんな気持ちを抱かせない。なるほどこれはポール・ヴァーホーヴェン映画。ユペールはしらっと掃除を始め、湯船が血に染まるのを確認し、フードデリヴァリーを頼む。

 『エル ELLE』が犯人探しがメインの映画でないことは、ヒロインの人物像だけで明らかだ。若い恋人のできた元夫、経営するゲーム会社の部下、下半身のだらしない親友の夫、親切な隣人ら…もうすぐ父親になる息子以外、男たちは漏れなく全員が犯人候補、ユペールはそんな彼らをじっと観察し始める。そう、彼女は被害者であることを拒否し、復讐の機会を窺う。

 ただし、彼女の行為のどれもこれも「下衆」なそれとして描くのがヴァーホーヴェンだ。周りの男は下衆だらけで、だからこそそれを征すには自らも「下衆」でなければならない。ユペールは己もまた下衆であることを承知し、その上で奇怪な、複雑怪奇な言動に出る。

 そこに宿るサスペンスとユーモア、これこそがヴァーホーヴェンであることは言うまでもない。80歳を迎えてなお、彼を独特の観念で縛ることは不可能だ。倫理観というものを突き破ることに快感を覚えるヴァーホーヴェンが生み出すキャラクターたちは、何でもかんでもオブラートに包みがちな人間像を嘲笑し、己の欲望に極めて正直に動き続ける。そのスリル、可笑しみに愛嬌がある。

 もちろんユペールが素晴らしい。本当の気持ちを押し殺し、何事もなかったように振る舞う様。その佇まいが可笑しく恐ろしく、しかも何と美しくもある。憎しみの炎を燃やしながら、でもそれを他人に気づかれることなく、彼女は着々と動く。あくまでこれまでと変わりなく、いつも通りに、けれどトラップを彼方此方に仕掛けることを忘れない。人間のまま彼女はモンスターになる。彼女の忌まわしき過去もユペールの演技の奥行きを深くする。

 クリスマスパーティとゲーム完成祝賀パーティ、二度開かれるパーティ場面はどちらも大いに見ものだ。主要キャラクターが集まり、己の腹の内を探り合う。下衆な者たちによる駆け引きが面白い。もちろん勝利するのは己の下衆を認めている者だ。ヴァーホーヴェンらしい。ヴァーホーヴェンらしいと言えば、中盤以降、犯人の正体をあっさり明かすあたりもそうだ。その後のヒロインの思考回路は簡単には説明できず、けれど、なるほどそこに珍妙な味がある。ヒロインがやたら清々しい表情を浮かべるに至るまで、その旅路はどこまでもヴァーホーヴェンの色に染まっている。





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