白いリボン

白いリボン “Das weisse Band”

監督:ミヒャエル・ハネケ

出演:クリスティアン・フリーデル、レオニー・ベネシュ、
   ウルリッヒ・トゥクール、フィオン・ムーテルト、ミヒャエル・クランツ、
   ブルクハルト・クラウスナー、ライナー・ボック、スザンヌ・ロタール

評価:★★★★




 ミヒャエル・ハネケは苦手な監督だ。人間の身体の中で蠢く悪意をあからさまに突きつけ、そのショックにより物語を飾り立てていく。それは目を背けない強さから来ているのではない。開き直りとも思える愉快犯にも似た冷静さ、或いは傲慢さから来ていると思う。語る話の外側からコマを動かすことから生じる不快さがあり、しかもそれを自覚しているフシがある。いくら完成度の高い作品だったとしても、生理的に受け付けない。

 だから『白いリボン』も観る前から随分と気分が重かったのだけれど、意外や意外、これまでとは得られる感触が全く違う。感心するところの方が圧倒的に多いではないか。ここで物語を追いかけるのは正しい観方ではないだろう。北ドイツののどかな村で奇妙な事件が続発する。道に張られた針金に馬が引っ掛かりドクターが落馬、納屋の床が抜けて小作人の妻が死亡、助産師の息子が瀕死の暴行を受ける。村には誰を信用すれば良いのか分からない不信感が溢れ、画面には緊張感がピンと張り詰める。果たして犯人は誰なのか。はっきりと名指しはされないものの、序盤から答えが妖しくちらつくあたりが巧い。

 そうなのだ。村の住人をアンサンブルで描くミステリー映画の箱を借りながら、この映画の主役は悪意そのものなのだ。美しい風景の裏の顔。因習に支配された田舎町、秩序は男爵と呼ばれる有力者を中心に平然と保たれているように見えながら、実は誰もが邪悪な秘密を抱え、気づかぬ内に負の連鎖に加担している。嫉妬や無関心、欺瞞や欲望が静かな暴力に変貌を遂げていく、奇怪な捩れ方を見せていくのが恐ろしい。

 そしてここが重要なのだけど、あのハネケが村の住人たちと同じ目の高さにまで降りてきている。…と言うより、ハネケ自身が不穏な気配となり、ジリジリとヒタヒタと、人間に近づき、絡みついていくのだ。カメラはむやみやたらには動かない。にも関わらず、目に見えない何かが動いているのが分かる。それこそが悪意で、ここでのハネケは自らをそこに放り込んでいる。そしてそれが、「ピアニスト」(01年)や「隠された記憶」(05年)、「ファニーゲーム U.S.A.」(09年)とは決定的に違うところ、誠実なところだ。

 舞台が北ドイツで、しかも時代が第一次世界大戦開戦前夜というのも面白い。後にナチスを生むその場所で起こる不可解な出来事。怪事件はこの場だけでは終わらず、世界各地に広がり、そして黒い歴史を創り出す。その事実が物語にコクを与えている。それが過剰に意識されないのもスマートだ。人間の本性こそがハネケの撮り上げたいもので、それが揺るがない。

 タイトルになっている“白いリボン”も素晴らしい効果を上げている。白いリボンは「純真無垢な心」の象徴で、牧師が子どもたちに身につけさせる印。悪意が充満する村の中で、それを守れるのかどうか。クリスチャン・ベルガーによる陰影豊かな撮影がテーマを鮮明に浮かび上がらせている。





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