ありがとう、トニ・エルドマン

ありがとう、トニ・エルドマン “Toni Erdmann”

監督:マーレン・アーデ

出演:ペーター・ジモニシェック、ザンドラ・ヒュラー、
   ミヒャエル・ヴィッテンボルン、トーマス・ロイブル、
   イングリット・ビス、トリスタン・ピュッター、ハーデヴィッフ・ミニス、
   ルーシー・ラッセル、ヴラド・イヴァノフ、ヴィクトリア・コチアシュ

評価:★★★★




 何と言っても、トニ・エルドマンなる人物の破壊力が凄まじい。出っ歯な入れ歯とムッシュかまやつヘアを無造作にウェイヴさせたカツラを装着した老人。彼は神出鬼没だ。クラブにもレストランにもパーティにも自宅にも現れ、しかし何の目的があるようにも見えぬ。空気を一変させるのは上手いものの、それを得意技と言って良いかどうか。

 彼を無視すれば良い。確かに。けれどそれが自分の父親の別の姿だった場合、そうは行かないだろう。娘は仕事中もプライヴェートでも父が扮装したエルドマンに遭遇(一種のストーカーではないか)、気まずい空気に耐えなければならない。父のこの行為は仕事漬けの娘を案じてのこと。しかし、そんな父の想いを受けとめる余裕など、娘にはない。いや、余裕があっても嫌か。

 『ありがとう、トニ・エルドマン』は父と娘の関係に揺さぶりをかける。エルドマンが自分の父親だったら…と考えると大変怖ろしいものの、迷惑な言動に何がしかの真実が潜んでいることも見逃されない。娘はエルドマンに合わせることでその場その場を乗り切る。けれどそれは芝居に乗るのではなく、他人の振りを貫くための手段だ。

 エルドマンに扮するペーター・ジモニシェックの奇怪さもさることながら、ビジネスウーマンの娘に扮したザンドラ・ヒュラーのエルドマンへの反応が最高に可笑しい。呆然とし、疎ましく思い、でも愛情はあるからスパッと切り捨てられなくて…。ジェニファー・ローレンスに似たヒュラーは、仕事では機械的に動くばかりなのに、エルドマンへの反応は極めて人間的で(言葉を失う感じ)、いちいちそれに付き合うのが可愛らしく見えるほどだ。

 娘の変化は予測できるものだけれど、その導き方にエルドマンの、作り手の独創性が光る。気がつけばどこに行くにしても一緒なふたりが、とあるパーティに紛れ込み、父の伴奏、娘の歌唱により、「Greatest Love of All」が歌われる場面の思いがけない感動や、遂に全てを脱ぎ去った娘が意表を突いたパーティを仕掛ける場面の独特の空気感など、他の映画ではお目にかかれない類のそれではないか。

 マーレン・アーデ監督はこの映画を人情ドラマにはしなかった。疎遠だった父と娘が和解するなんてことには、端から興味がないのではないか。拘ったのはおそらく、父と娘の心の行き違い、擦れ違い、そしてときにばったり出くわした際の、様々な感情がぐるぐる回る感じをそのまま視覚化することだったのではないか。娘だけでなく父自身、エルドマン自身をも巻き込む巨大な渦、それがようやく消え去ったときに残るものが妙に清々しい。





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