ムーンライト

ムーンライト “Moonlight”

監督:バリー・ジェンキンス

出演:トレヴァンテ・ローズ、アシュトン・サンダース、アレックス・ヒバート、
   アンドレ・ホランド、ジャハール・ジェローム、ジェイデン・パイナー、
   マハーシャラ・アリ、ジャネール・モネイ、ナオミ・ハリス

評価:★★★★




 主人公の名はシャロンという。『ムーンライト』は三つの時代のシャロンを、三人の俳優を使って描く。アレックス・ヒバート、アシュトン・サンダース、そしてトレヴァンテ・ローズ。ヒバートからサンダースになるのはともかく、サンダースからローズに代わる瞬間は、あまりの変貌に突っ込みを入れたくなるものの、そんな安い感情はアッという間に消え失せる。観る側はすっかり、シャロンの心の内に取り込まれているからだ。人の心には自分が支配者である宇宙が広がっている。月明かりがそれを照らし出す。

 様々な思いが交錯する物語だ。黒人社会で生きる難しさ。タフでならなければならない苦痛。逃れられない負の泥沼。伝えられない想いと決して消えることのない後悔。肉体よりも大きな傷を負う心。白人が背景としてでしか出てこない画面には、黒人に限らない普遍的なテーマの数々が散りばめられる。バリー・ジェンキンスの最大のチャレンジは、これをいかに新鮮に観る側に届けるかということだったはずだ。

 シャロン役の三人の配役は重要だ。シャロンは無口で、己のことを語りたがらない。ただし一貫してその身体には淋しさが一本の軸として通っている。三人がそれを同じものとして見せられなければ、全てが嘘になる。三人は所作云々よりも、その眼差しに同じものを宿す。その瞳はそのまま、宇宙への入り口になる。

 勝負は観る側を宇宙に引き込んでからだ。ジェンキンスはその画を目に残る視覚的空間として切り取って見せる。マイアミに降り注ぐ陽の光を控え目に抑え込む。音楽は大袈裟に響かない。物騒なスラム街でさえ艶を帯びる。ジェンキンスは部屋の薄明かりや海辺の静けさの中に、シャロンや周辺人物の「想い」を解放させていく。差し出されるもの全てが、詩になる。

 「想い」を大波のように映し出さないのが巧い。エピソード自体はそれほど多くない。ただ、一つひとつがじっくり時間をかけて描写される。エピソードの中で小波が何度も押し寄せる。小波は一度寄せるだけでは砂浜を僅かに濡らすだけだ。ただ、何度も押し寄せることで、次第にその存在を大きなものにする。小波が丁寧に何度も何度も掬い上げられることで、シャロンの狂おしい内面が立体的になっていくのだ。

 美しい場面は至るところにある。シャロンが父親代わりの麻薬ディーラー(マハーシャラ・アリが最高。彼のラストショットは大いに目に焼きつく)と一緒に海に入る場面。シャロンが密かに思いを寄せる唯一の友人ケヴィンと唇を重ねる場面。狭いアパートの中、シャロンが想い焦がれたケヴィンをじっと見つめる場面。いずれも時が止まったかのような穏やかな気配に支配されながら、得体の知れない緊張が漲り、言葉の一つひとつが大きな揺れを伴う。そこにはもちろん、あの眼差しがある。苦しく、切なく、そして温かな眼差しがある。





ブログパーツ

blogram投票ボタン

スポンサーサイト

テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

プロフィール

Author:Yoshi
Planet Board(掲示板)

旧FILM PLANET

OSCAR PLANET




since April 4, 2000

バナー
FILM PLANET バナー

blogram投票ボタン
blogram投票ボタン
人気ページ<月別>
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
最新トラックバック
QRコード
QRコード
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

Friends
福☆こもろ