禁断のケミストリー

禁断のケミストリー “Better Living Through Chemistry”

監督:ジェフ・ムーア

出演:サム・ロックウェル、オリヴィア・ワイルド、ミシェル・モナハン、
   ベン・シュワルツ、ケン・ハワード、ハリソン・ホルツァー、
   レイ・リオッタ、ジェーン・フォンダ

評価:★★★




 欲求不満を抱えた誰かの白昼夢を覗いている気分になる。オープニングクレジットの背景は田舎町の模型だ。そこに住んでいる男だろうか。一見可愛らしい模型。けれど、目を凝らして見ていくと、細部には雑なところが残り、それゆえかシュールな匂いが漂う。

 サム・ロックウェルが演じるのは町で唯一の薬剤師だ。サイクリング中毒の妻にはバカにされ、息子は学校で大便をまき散らして困らせる。決して不幸ではないものの、自分の思うようには生きられない男。『禁断のケミストリー』は彼の人生が動き出す様を描き出す。

 直接的な原因は自らが店長を務める薬局のドラッグに手を出してハイになる快感を知ったことだ。けれど、そこに彼を放り込むのは大富豪の若い妻だ。オリヴィア・ワイルドが演じる。ヴァンプ(vamp)という言葉がぴったりな妖しさと貫録を具えたワイルドに(マーゴット・ロビーでも似合いそう)、ロックウェルは一瞬で魅了される。表情はそのままに骨抜きになる。ついで己の中の狂気に気づく。ロックウェルがあまりにも巧くて笑う。

 でも、ロックウェルはこれまでだってそうだった。彼は平凡な容姿の中に鋭いナイフを隠し持つのを得意にしている。美女と薬をきっかけに動き出した男の人生。サイクリングやセックスを通して妻から見直され、息子との関係も改善。彼は勝利の味を知る。ロックウェルはその背後に狂気を忍ばせる。相変わらずの平凡な顔の裏でナイフを尖らせる。映画のいちばんの見どころは、それを捉えるロックウェルの演技だ。

 けれど男は、いよいよ狂気が大爆発するというところで、急に我に返る。俺は一体何をしようとしているのだ。ワイルドの夫を殺す、その寸前で正気に返るロックウェル。そしてぼろぼろの自分を受け入れる。あぁ、何だ、結局教訓話に落ち着くのか。つまらない事態ではないか。

 …という思いを覆すのは、爆発しない可笑しみがどこか感じられるからだ。作り手は男を爆発させないことで、人生の滑稽さを抉り出している。そう、抉り出すという言い回しが相応しい。生きていくストレスに押し潰させそうになっても、人はそれでも生きていく。大抵は死なない。人生を爆発させる、そんなことはほとんどの人間ができない。そして、この物語の男もできなかった。その姿は滑稽で、でも人間は滑稽なまま生きていかなければならない。模型の街の住人の見る夢は、結局夢のままに終わる。それで良い。





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