息もできない

息もできない “Breathless”

監督・出演:ヤン・イクチュン

出演:キム・コッピ、イ・ファン、チョン・マンシク、ユン・スンフン、
   キム・ヒス、パク・チョンスン、チェ・ヨンミン、オ・ジヘ

評価:★★★★




 一口に暴力と言っても、色々な種類がある。暴力が氾濫している映画というメディアでも、短くない歴史の中でその全てが取り上げられたとは到底言えないだろう。簡単に括ることのできない複雑なものだからだ。ハリウッドのアクション映画にありがちな脳天気な暴力は、韓国映画『息もできない』のどこにも見当たらない。それどころか生まれて初めて目撃するような暴力の瞬間が捉えられている。

 オープニングから暴力が思いがけない方向に向いているのが分かる。路上で男が女に殴りかかっている。周囲の人間たちは手を出すことができない。そこに入り込んでくるのが暴力の匂いを嗅ぎつけた主人公で、いきなり男に襲い掛かり、意識を失ってしまうほどにぶちのめす。主人公は女を救った英雄…にはならず、そして今度はなんと女に殴りかかるのだ。続けて言い放つ。「殴られっぱなしでいいのか」。

 出てくる人間たちが皆、暴力により繋がっているのが異様な迫力を生んでいる。それぞれはそのことを意識はしていない。ただ、日常の中に当たり前のようにそれが蔓延り、いやらしくまとわりつくように人と人を絡み上げている。そこから遠ざかろうとしても断ち切ろうとしても、粘着性のある質感を持って、決して拭い去ることができないのが厄介だ。そもそも主人公男女からして暴力が結びつけている。友人の取り立て屋で働くチンピラのサンフン、一見普通の女子高生であるヨニ。ふたりの出会いはサンフンが吐いた唾がヨニを直撃、口論になった末、サンフンがヨニを殴ったことから始まる。本来ならそこで関係は終わるのだろうけれど、このふたりの場合、次のショットでは仲良く並んで座っているから驚く。そして、それに納得させられてしまうのにもっと驚く。

 サンフンもヨニも家族に問題を抱えている(もちろん暴力と密接に繋がっている)のに、それを打ち明けないままに距離を縮めていくのが面白い。穏やかな毎日を望んでいるはずのに、それが叶わないもどかしい毎日。ふたりはただ同じ空間に立ち、言葉を交わすことで、何かを感じていく。魂と魂が寄り添う。でももたれかかりはしない。寄り添うだけ。寄り添い、互いを感じるだけ。夜の漢江の場面が忘れられない。

 それにしても、場面ごとに暴力を振るうサンフンなのに、殴られる相手よりも彼にシンパシーを感じてしまうのには呆気に取られる。その過去が詳細に描かれるわけではないのに、彼がその身体の中で消化できないものが確かに伝わってくるからだろう。彼が殴れば殴るほどに、その哀れさが際立っていく。演じるヤン・イクチュンは監督も務めているだけあって、入魂という言葉が相応しい生々しい演技を披露。心臓を鷲掴みするのに躊躇いがない。

 ヤンは物語の抑揚のつけ方や省略の仕方に非凡な才能を見せ、演出力も達者だ。だが、この映画に関してはそういう技術云々よりも、映画作家としての信念の強さ、或いは物語への執念がモノを言ったと思う。根底に流れる、話に賭ける想いが全てを呑み込み、それが画面いっぱいに吐き出されている。





blogram投票ボタン

ブログパーツ

スポンサーサイト



テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

プロフィール

Author:Yoshi
Planet Board(掲示板)

旧FILM PLANET

OSCAR PLANET




since April 4, 2000

バナー
FILM PLANET バナー

人気ページ<月別>
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
最新トラックバック
QRコード
QRコード
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

Friends
福☆こもろ