ブリッジ・オブ・スパイ

ブリッジ・オブ・スパイ “Bridge of Spies”

監督:スティーヴン・スピルバーグ

出演:トム・ハンクス、マーク・ライランス、エイミー・ライアン、
   アラン・アルダ、スコット・シェパード、セバスチャン・コッホ、
   オースティン・ストウェル、ウィル・ロジャース、ミハイル・ゴアヴォイ

評価:★★★




 1957年、冷戦下のブルックリン、鏡に自分を映しながら自画像を描く初老の男の佇まいにいきなり見入る。アパートは錆びれている。聞こえるのは生活音のみ。質素な空間に臭うのは圧倒的な孤独。かかってくる電話の先に友人がいるようには全く見えない。外に出ても、誰も彼に気を留めることはない。地下鉄や町中の雑踏の中、彼は単なる空気だ。着いた先、公園で彼は再びキャンパスに向かう。その彼を当局の強面男たちが追う。

 男の正体はソ連のスパイだ。演じるマーク・ライランスが桁外れに素晴らしい。額に何本も刻まれたシワ。同じく深く入ったほうれい線。大胆に下がった口角。髪は薄く、メガネの奥の瞳に生気は感じられない。しょぼくれた外見を極めながらしかし、ライランスはある種の美を感じさせる。どこまでも国に忠実であり続け、そのために犠牲を厭わず、他には絵を描く道具さえあれば良いという男の哀愁。ライランスが画面に入る度、理由もなく涙を誘われる。

 そのライランスが逮捕される。『ブリッジ・オブ・スパイ』はその彼を弁護することになったトム・ハンクスの物語だ。アメリカ人であるハンクスから見れば、ライランスは憎き相手のはずだ。けれど、彼は誰もが与えられるべき平等の権利を求めて闘う。面白いのはハンクスが、実は保険専門の弁護士ということで、その彼が提案・予見するあるアイデアがそれにさり気なく絡んでいく。法廷でハンクスが語り掛ける「Who we are」(我々[アメリカ]の在り方)に向かって、実にスマートだ。

 そう、スティーヴン・スピルバーグの演出はいよいよ気持ち良い。カメラの動くスピードや切り返しのタイミング。語りのペース、シリアスな中に挟まれるユーモア。映像の色合いや匂いも、美術や衣装と共に時代の気配を愉快に伝える。こうした細部が頑丈であるがゆえ、ハンクスとライランスの間に流れるものが、臭くならない。拘留室の中で交わされるシンプルな言葉の掛け合いが、慎ましく沁みる。

 そうかと思えば後半、スピルバーグは物語を大きく転換させる(前半から少しずつ描かれるアメリカの作戦パートがようやく意味を持つ。若干もたついた感)。ソ連に囚われたアメリカ人スパイの救出任務が決行されることになり、ハンクスがそれを任される。ライランスと米スパイの交換が、しかも東ドイツで行われるのだ。東ドイツでの攻防は前半以上に会話にドライヴがかけられる。東ドイツに拘留されたアメリカ人留学生の問題まで背負い、一介の弁護士が国相手に勝負を仕掛ける様。彼の武器は信念と知性しかない。ハンクスは本当に、こういう役が頼もしくキマる。

 雪が降り積もったグリーニッケ橋でのスパイ交換場面は、文句のつけようのない名場面だ。ソ連とアメリカ。ソ連のスパイとアメリカのスパイ。弁護する者と弁護される者。互いに信頼と尊敬の心を抱くふたりの男を中心に、様々な対立軸が、空気さえ凍りつく景色の中で、激しく揺さぶられる。こんなときでもライランスは表情を崩さない。それどころか、いよいよ別れるというときになっても、ハンクスの目さえ見ない。けれどそれが、それだからこそ、見えてくるものがある。若い頃のスピルバーグ映画では蒼く幼く見えたものが、時を経て堂々たる風格を伴って再び姿を現す瞬間ではないか。





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