名もなき塀の中の王

名もなき塀の中の王 “Starred Up”

監督:デヴィッド・マッケンジー

出演:ジャック・オコンネル、ベン・メンデルソーン、ルパート・フレンド、
   サム・スプルエル、アンソニー・ウェルシュ、デヴィッド・アヤラ、
   ピーター・フェルディナンド、ガーシュウィン・ユスターシュ・Jnr 

評価:★★★★




 主人公エリックの印象がアッという間に変わる。演じるジャック・オコンネルはパッと見た感じ甘いマスクだし、心も硝子でできていそうな繊細さを感じさせる。あぁ、彼はケモノだらけの刑務所で生き残れるだろうか…などという心配が粉々に砕け散る快感。そう、ケモノという言葉はエリックにこそ相応しい。

 俺の周りは360度全方位敵だ…と言わんばかりに、感情を爆発させ続けるエリックは、人を傷つけることを躊躇わず、自らが傷つくことも恐れない。けれど、全てを諦めたわけでもないようだ。ある人間は言う。「人を攻撃しないとプライドを保てないのか」。未熟な魂が暴力によって己の存在を確認する。

 エリックは幼いとき、虐待を受けていたと明かされる。しかし、『名もなき塀の中の王』は暴力的な人間をジームクント・フロイト的に分析しようと試みる映画ではない。基本軸としてあるのは、あくまで青年が変化を見せる過程だ。それは成長と呼べるほどに鮮やかでも初々しくもない。けれど、生死がかかった刑務所の中で揉まれる中に浮かぶ青年の苦悩と光が、ほんの僅かなそれなのに、決して見逃されない。

 ルパート・フレンド演じる無料カウンセラーが手を差し伸べる。冷静に、忍耐強く、時に自らが盾になることを憚らない。セラピー仲間との掛け合いはほとんど一触即発の様相で、ところがそれが青年を変えるきっかけになる。優等生的に見えてもおかしくないセラピーという環境にもたらされる、張り詰めた空気が誠実だ。

 そしてもうひとつ、大きな意味をなすのが、ベン・メンデルソーン演じるエリックの父親の存在だ。実は刑務所の先輩でもある父は、もちろん模範的なそれではない。エリックと父親は普通の父息子同様に、それぞれに対し複雑な思いを抱えていて、愛してる愛していないに終わらない濃厚な空気を醸し出す。言葉は出てこない。態度は素っ気ない。むしろ互いが棘を見せて威嚇し合う。彼らはそうすることでしか、互いを見守れない。

 物語の緊張感はオコンネルに託される。丸刈りゆえに余計に目立つ額の皺に怒りを封じ込め、刑務所内を腰履きで闊歩し、己が危ないと判断するや相手の股間に噛みつく。野性が本能と絡み合う。ただ、ガキが突っ張っているだけではない。オコンネルは役柄の闇を懸命に探し当て、それを見えない衣服として装着している。緊張が僅かに緩むラストシーン、ぶつかる頭と頭が胸を打つ。





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