ヴィンセントが教えてくれたこと

ヴィンセントが教えてくれたこと “St. Vincent”

監督:セオドア・メルフィ

出演:ビル・マーレイ、ジェイデン・リーベラー、メリッサ・マッカーシー、
   ナオミ・ワッツ、クリス・オダウド、テレンス・ハワード、
   キンバリー・クイン、レニー・ヴェニート、ネイサン・コードリー、
   ドナ・ミッチェル、アン・ダウド、スコット・アツィット

評価:★★★




 世の中には不良に対する幻想が存在する。素行の悪い者が実は子どもや老人に優しいというアレだ。その筋の人が堅気の一般人を問題に巻き込まない…なんてのもその延長かもしれない。ふむ、それならばヴィンセントが格好良く見えるのも幻想なのか。いじめっ子を撃退するところなど、相当カッチョイイぞ。

 『ヴィンセントが教えてくれたこと』ははみ出し者の老人とひ弱な男の子の交流を描く。老人が思いがけずオリヴァー少年の子守りをすることになったのをきっかけに、それぞれが人生のコマを少しずつ進めていく。セオドア・メルフィはこの定番のツボを忘れず的確に押す。あり得ない(映画では大いに「あり得る」)組み合わせによるマジック。老人と子どもが競馬場やらバーやらで遊ぶ件の愉快なこと。少年が老人から教わったケンカの仕方を実践する場面は、この手の話のお約束と承知しつつ、痛快。

 けれど、ここに感傷が絡むと、陽気な空気が停滞を始める。やりたい放題に見えるヴィンセントの影の正体が明らかにされ、その複雑な心情(人はそれを人間性と呼ぶことが多い)が露になる。それに囚われ過ぎるのが問題だ。いつの間にか涙を搾り取ろうとする作為がちらつく。少年の母や妊婦ストリッパー、いじめっ子らの影までもが顔を出し、前半のカラッとした空気が恋しくて堪らなくなる。

 このまま感傷に物語が支配されてしまうのか。あぁ、でも感傷に抵抗する者がいるではないか。それこそがヴィンセント役のビル・マーレイだ。演出や物語が感傷に流されても、マーレイはそれが毛穴に入り込むことを拒否する。それどころか甘ったるい気配を己のテリトリーに入れることを許さない。我が道を行く、その快感を知り抜いた男独特の速度を守る。

 後半はさながら、「感動物語」に仕立て上げようとする作り手とマーレイの一騎打ちだ。少年の健気さや母の真心や傷、ストリッパーやいじめっ子の良心を武器に、無難なところに持ち込もうとする演出を、不機嫌な表情と所作のマーレイが物ともせずに突っ切る。マーレイの姿はロック、それに魅了される。哀しみの底に突き落とされても、病に倒れても、周りに誰も人がいなくなっても、決して媚びない。他の役者がマーレイと同じような役を演じた場合、露になる「可愛さ」に自覚的な俳優がほとんどだというのに。

 学校の発表会でオリヴァーがヴィンセントの人生を称えるスピーチがクライマックスだ。ほとんど卑怯と言える装飾に満たされた画面の中、マーレイはやはり、マイペースな表情と佇まいを崩さない。なんでこんな面倒臭いことをするんだ。そんなボヤキがセリフにないのが不思議だ。ユーモアと相性の良いマーレイの孤高の魅力が全ての映画。最も可笑しいのは、エンドクレジットで流れる、庭でホースと「格闘」するマーレイの一人芝居…かもしれない。





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