わたしに会うまでの1600キロ

わたしに会うまでの1600キロ “Wild”

監督:ジャン=マルク・ヴァリー

出演:リース・ウィザースプーン、ローラ・ダーン、トーマス・サドスキー、
   ミキール・ハースマン、ギャビー・ホフマン、キーン・マクレイ、
   ケヴィン・マクレイ、ケヴィン・ランキン、W・アール・ブラウン

評価:★★★




 リース・ウィザースプーン演じるヒロインはパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)に挑む。メキシコからカナダまで、岩山や砂漠、雪原を通り抜け、三カ月かけて歩くのだという。どうやら彼女は過去に何かあったらしい。新しい自分探しの旅なのではないかと危惧するものの、この旅にはファッションと同義語になったそれの匂いはない。ヒロインの何かに対する強烈な飢えが見える。斯くして彼女が崖から靴を落としてしまう冒頭、物語一発目のセリフが「Fuck you, bitch!」になる。

 ジャン=マルク・ヴァリー監督はそこから時計の針を戻し、旅の様子を最初から見せる。どうやら彼女は旅の素人だ。自分の身体より大きく重いリュックサックを背負うだけで四苦八苦。登山靴はサイズが合わず、テントを立てようとしても上手く行かず、コンロを使おうとすると燃料を間違える。一見後先考えない女を忍耐強く見つめ、その過去をフラッシュバックで明らかにしていく。

 フラッシュバックの入れ方はやや落ち着きがないところが目立つものの、少しずつ落とされていく情報から感じられる切実さと痛みに本当らしさがあり、気がつけばその苦悶の旅路に身を乗り出さずにはいられない。彼女はつぶやく。「母の思っていた私に戻る」。

 見たことのないウィザースプーンがここにいる。誰よりも愛しい人だった母に対して素直とは言い難かった自分。喪失感からぼろぼろに堕ちた自分。自暴自棄の中の快楽に溺れた自分。大自然の中でそれを無理矢理直視する、強引にすら見える眼差しよ。小汚く傷だらけになりながらしかし、小さなウィザースプーンが次第に逞しく見えてくる。彼女は脱皮するのだ。それこそ昆虫がそうするくらい劇的に過去を脱ぎ去る。その覚悟にもたらされる説得力。

 ヒロインが大自然の中で幾度となく目撃するキツネが母の化身のように見える。孤独な旅なのに、彼女は独りでありながら独りでない。死してなお消えることのない母の慈愛によるところが大きいのではないか。回想場面のローラ・ダーンが体現するそれが、ヒロインのぼろぼろの身体を包み込む。母と娘の不思議な繋がりが上品なアクセントになる。

 ヒロインはトレッキングコースのチェックポイントに置かれたノートにいくつかの詩を書き留める。その中のひとつがエミリー・ディキンソンによる「勇気が君を拒んだら、その上を行け(If the spirit refuses to you, then exceed by your courage)」というフレーズだ。『わたしに会うまでの1600キロ』はそれを映像化したような映画だ。敢えて盛り上げない旅の終着点に辿り着くヒロインは、確かにそれを成し遂げた佇まいではないか。





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