ベル ある伯爵令嬢の恋

ベル ある伯爵令嬢の恋 “Belle”

監督:アマ・アサンテ

出演:ググ・バサ=ロー、トム・ウィルキンソン、サム・リード、
   サラ・ガドン、エミリー・ワトソン、ペネロープ・ウィルトン、
   ミランダ・リチャードソン、トム・フェルトン、
   ジェームズ・ノートン、マシュー・グード

評価:★★★★




 18世紀の英国ハムステッドを舞台にヒロインが恋に落ちる。彼女は貴族の令嬢で、恋の相手は法律家を志望する青年だ。貴族の邸の内装は絢爛豪華。椅子やテーブル、カーテンといった家具や皿やグラス、ナイフやフォーク等の食器は格調高い。部屋は天井が高く、壁紙も壁にかかる絵画や彫刻も美しい。もちろん庭には緑が溢れる。女たちのドレスは華やかの一言に尽きる。これはもうジェーン・オースティンの世界ではないか。ところが…。

 ところが、『ベル ある伯爵令嬢の恋』はそれだけに終わらない。令嬢の肌は黒い。実は彼女は白人の父と黒人の母の間に生まれた娘で、これが当時の英国において大きな意味を持つ。既存映画の数々を思い出しても、美しく着飾った黒人貴族女性など滅多にお目にかかれない。当時の英国は奴隷貿易の中心だったからだ。

 オースティンの世界に入り込む物語はしかし、令嬢と青年の恋と同様に、重要な軸を具えている。ヒロインを育てたのは主席裁判官のマンスフィールド卿で、彼が抱えるゾング号裁判の行方が恋模様に絡み出す。英国の奴隷船で発生した黒人たちの大量死事件。主人公が黒人令嬢で、扱われるのはゾイド号事件。この映画は未だに完全には消え去ってはいない差別問題に、甘い顔で油断させながら、不敵に斬り込む。

 何と言っても、ヒロイン、ダイド・エリザベス・ベルのポジションが面白い。彼女は黒人でありながら、多くの白人が憧れる貴族という立場にいて、これが様々な対立構造を生み出している。黒人と白人。庶民と貴族。貧乏と富裕。社会的立場の点から見る男と女。彼女はそれゆえに苦悩する。恋に落ちるというその年頃の娘なら当たり前の戸惑いと共に、自らのルーツを考えざるを得なくなる。

 10年前ならケリー・ワシントンが演じたのではないかと思われる役柄を務めるググ・バサ=ローが可憐を極める。家族に大切に育てられながら、それでも使用人とも身内とも一緒に食事ができないという微妙な立場の中で、バサ=ローの凛とした眼差しが細く儚げな身体と好対照を見せる。「箱入り娘」がアイデンティティーに目覚めていく過程の美しさに注目だ。

 ベルと一緒に本当の姉妹同然に育ったエリザベスという名の若い娘が出てくるのも上手い。肌の色を超えて仲を深めていく。その彼女たちの間にも極僅かな溝が見える。実のところ、作中最も胸が痛むのは、このふたりの仲が危うくなる件だ。差別意識についての問題の根深さを考えさせられる。どんな善良な白人でもどこかで黒人とは違うものを感じている、そんな気配が漂うのが心苦しい。エリザベスを演じるサラ・ガドンがバサ=ローに負けないくらいに美しく、その心の小さな小さな「醜」の部分を丁寧に掬い上げる。

 その他、若い娘たちを見守るマンスフィールド卿の複雑な心と立場を表現するトム・ウィルキンソンら脇を固める性格俳優のアンサンブルが豊かだ。ただ、バサ=ローの相手役として出てくるサム・リードはインパクトに欠けるか。ライヴァル役のジェームズ・ノートンも恋の盛り上げ役として少々厳しい。でもまあ、思いがけず時代に小さな石を投げ入れた若い女の足音の魅力には、結局敵わない。この物語の後にもきっと、彼女はきっと大きなドラマを抱えていたのではないか。そう、これは実話なのだ。





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