オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分

オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分 “Locke”

監督:スティーヴン・ナイト

出演:トム・ハーディ

声の出演:オリヴィア・コールマン、ルース・ウィルソン、
   アンドリュー・スコット、ベン・ダニエルス、
   トム・ホランド、ビル・ミルナー

評価:★★★




 実験作ということになるのだろう。その日の仕事を終えた男が車に乗り込んでから、物語はそれから降りることがない。ある知らせをきっかけにロンドンへ向かう男。車内には次々電話が入る。男からもかけられる。それをリアルタイムで追う。全く目新しいというわけではなくとも、車内の画だけで勝負する『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』、野心はたっぷり感じる。

 当然大半は、薄暗い車内、ネオンをバックにした男の表情を捉えた画になる。危険だ。画面にめりはりが出ないかもしれない。単純で自己満足的な会話劇になることも考えられる。夜の闇が睡魔を誘い込む可能性もある。そこでスティーヴン・ナイトはいきなりカードを切る。主演にトム・ハーディを選ぶ。

 ハーディが「普通」だ。思えばハーディはこれまで、奇怪な役柄が多かった。精神的に異常だったり、特異な職業に就いていたり、純情な怪物だったり…普通からはかけ離れていた。それがここでは、そのスペシャルな存在感を消し去る。どこにでもいる、目立ったところのない、真っ当な価値観の男。しかし、ハーディは「普通」を魅力的に見せる。

 それは観客が男に抱くだろうイメージが万華鏡を覗くがごとく、次々変化していくところに顕著だ。おそらく初めはダメ男の匂いを感じるだろう。自業自得という言葉も思い浮かぶかもしれない。けれど、その平凡な佇まいの奥に、デリケートな心模様が滲み始める。それがおかしみや艶を役柄に与える。親近感はもちろん、人間というイキモノとして生を受けた者の、それでも生きていかねばならぬサダメを感じさせる。

 ここでポイントになるのが、唯一電話を介さずに話す者の存在だ。何の説明もなく始まるその人物との会話は、男の立体性をいよいよ決定づける。そしてそれが妻や子どもを始めとするその他の登場人物との会話と絡み始めることで、男の日常、或いは男の人生までが見えてくる。男はきっと誠実だ。過ちを犯したとしても誠実だ。その日々の風景が目に浮かぶ。

 これは破滅を描いた物語なのだろうか。半分正解で、半分間違いとするのが正しい。ハイウェイを降りた男の元にかかってくる二本の電話。その向こうには僅かなる光が、これからの厳しい試練と共に射しているではないか。単調なようでカーヴの多いハイウェイの上、男の魂が無意識に許しを請うているかのようだ。





ブログパーツ

blogram投票ボタン

スポンサーサイト

テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

プロフィール

Author:Yoshi
Planet Board(掲示板)

旧FILM PLANET

OSCAR PLANET




since April 4, 2000

バナー
FILM PLANET バナー

blogram投票ボタン
blogram投票ボタン
人気ページ<月別>
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
最新トラックバック
QRコード
QRコード
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

Friends
福☆こもろ