アリスのままで

アリスのままで “Still Alice”

監督:リチャード・グラツァー、ウォッシュ・ウエストモアランド

出演:ジュリアン・ムーア、アレック・ボールドウィン、ケイト・ボスワース、
   クリステン・スチュワート、ハンター・パリッシュ、シェーン・マクレー、
   セス・ギリアム、スティーヴン・クンケン、ダニエル・ジェロル

評価:★★




 主人公アリスは50歳にしてアルツハイマーを発症する。その彼女が言う。「癌だったら良かったのに」。重い言葉だ。不謹慎でも、それが口から出てしまったとして、どうして責められよう。認知症患者が傍にいたことがある人ならば分かるはずだ。これはこの世で最も残酷で、寂しく、哀しい病気だ。

 アリスに扮するジュリアン・ムーアが圧巻の演技だ。知る限り、この病は治癒可能なそれではない。アルツハイマーを凝視するとき、健常者はどれだけ近くにいても傍らで見守ることしかできない。病の経験者として内側から知ることはできない。…にも関わらず、ムーアの演技はそれがどういうものか、彼女の一人称で悟らせる。

 ここが『アリスのままで』の優れているところだ。患者がどういう思いで時を過ごすことになるのか、ムーアはその表情や所作の余白に、アリスの苦悩と戸惑いを描き込む。その結果、観客はあたかもアリスの中に入り込んだようにアルツハイマーを目撃することになる。ムーアの演技が作品の半分以上を支えていると言っても過言ではない。

 とりわけ記憶というものに対する向き合い方が沁みる。アリスは「人生を捧げてきたものがすべて消えてしまう」と嘆く。彼女は言語学者だった。知識に対する姿勢が真摯であるがゆえ、さらに苦しみは大きいかもしれない。どうしても自分だったらと考える。あのとき愛するあの人は何を思っていたのだろうと考えることもあるだろう。恐ろしい。並のホラー、など相手にならない。

 演出はしかし、この恐ろしさには関心を抱かない。ムーアの演技に頼り、話を美しくまとめる、それだけが演出から感じる意思だ。アリスはアリスであるために全力を尽くす。周りは彼女を思いやりを持って支える。そこには愛がある。けれど、この病は癌ではない。その他の難病とも性質を異にする。人が人のまま抜け殻のようになっていく。そこには当然、受け止める側の「醜」の部分も浮上するはずで、それを知る者はおそらく、物語に空虚さを感じるのではないか。

 夫や子どもたちの反応は現実感があるというより、理想論の中で考え得る、最もシヴィアな反応でしかない。アリスの内面が消えていくに連れ、必然的に周囲の人間が関わるエピソードが多くなるものの、彼らは結局医学書通りにしか動かない。それならば症状が軽いときのアリスが重くなってからのアリスに向けて語るビデオのような、映画的なドラマ性を追求しても良かったのではないか。ムーアの演技ばかりが妙に残る映画だ。





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