ババドック 暗闇の魔物

ババドック 暗闇の魔物 “The Babadook”

監督:ジェニファー・ケント

出演:エシー・デイヴィス、ノア・ワイズマン、
   ヘイリー・マケルヒニー、ダニエル・ヘンシュオール、
   バーバラ・ウエスト、ベンジャミン・ウィンスピアー

評価:★★★★




 ババドックは珍しやオーストラリアの怪人だ。怪人の詳細は一冊の絵本に描かれる。白い顔に乗った真ん丸の目に大きな口。シルクハットを被り、指は鍵爪のように長い。全身は黒い影で、アフリカの奇怪な置物風と言うか、からくり屋敷に巣食う謎の奇術師風と言うか、喪黒福造豪州版と言うか。『ババドック 暗闇の魔物』でヤツが狙うのは、息子が生まれるという日に父親を交通事故で亡くして6年経つ、母親と息子だ。

 魔物とそれに魅入られた家族の戦いを描くホラーは多い。大抵は小さな怪現象から始まり、段々それがエスカレートしていく。子どもがまず異変に気づき、最初は信じなかった大人もその存在を認めざるを得なくなる。ここでもそのパターンが繰り返される。スープに入った硝子。荒らされる夫の遺品。ゴキブリの大量発生。いたずら電話。他のホラー映画の怪現象でもありそうなことだ。しかし、この映画は怖い。何故か。

 ババドックが自身で語るところによると「ババドックの存在を否定すればするほど、その力は強大になる」らしく、その通り、最初からババドックを恐れる息子は臨戦態勢に入るのが早い。しかし、母親は普段から落ち着きのない子どもの妄言だと取り合わない。つまりババドックは母親を狙う。母親は恐怖の存在となる。怪異と闘うことになるのは息子であり、それに魅入られることを許してしまった母親自身ということになる。

 ババドックを己の中に入り込むことを許してしまった母親の戦いが壮絶だ。誰よりも愛している息子を疎ましく感じるだけでも心苦しいのに、実際に襲い掛かる衝撃。己の異変を自覚し、方法も分からぬままにそれに抵抗する苦しみ。ストレスを吐き出すかのように飛び出す心無い言葉の鋭利さ。

 ババドック襲来による母親の変貌は、そのまま育児ノイローゼのメタファーとして読めるだろう。どれだけ言い聞かせても予想外の行動に出る息子。仕事と子育ての両立の難しさ。周囲の無神経と無理解。母親が追い詰められていく過程が生々しく、かつ心底恐ろしいのは、その狂い方に現実感を感じるからではないか。

 母親を演じるエシー・デイヴィス(キルスティン・ダンストにそっくり)の迫力ある演技は一見の価値がある。愛と憎しみのせめぎ合いが凄まじい。対象がお腹を痛めて生んだ我が子であり、しかもその息子が生まれた日は愛する夫を亡くした日でもあるという事実が、神経をすり減らす速度を加速させていく。その哀れさ、寂しさを決して忘れない恐怖演技だ。

 ババドックの攻撃は勢いを増すばかりだ。その局面を変えるものは何か。それが、それでも母親を愛することをやめない息子の愛というのが切なく、感動的だ。母親も息子の愛を感じ取る。生まれた子どもの数だけあるに違いない育児疲れの多くは、それでもいつしか乗り越えられる。そう信じたいという作り手の意思が感じられる。

 …と思い至ったところで訪れる大オチ!まるで悪夢からは決して逃れられないと囁かれているような、折り合いのつけ方の大切さを説かれているような、新しい生き方を提示されているような、意表を突くまとめ方ではないか。この不思議な安らぎを感じさせるエンディングと言い、青と灰色の中間を狙った色彩と言い、低予算を乗り切る魅せ方の工夫と言い、手掛けたジェニファー・ケントの監督力は相当なものと見る。





ブログパーツ

blogram投票ボタン

スポンサーサイト

テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

プロフィール

Author:Yoshi
Planet Board(掲示板)

旧FILM PLANET

OSCAR PLANET




since April 4, 2000

バナー
FILM PLANET バナー

blogram投票ボタン
blogram投票ボタン
人気ページ<月別>
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
最新トラックバック
QRコード
QRコード
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

Friends
福☆こもろ