インヒアレント・ヴァイス

インヒアレント・ヴァイス “Inherent Vice”

監督:ポール・トーマス・アンダーソン

出演:ホアキン・フェニックス、ジョシュ・ブローリン、オーウェン・ウィルソン、
   キャサリン・ウォーターストン、リース・ウィザースプーン、
   ベニチオ・デル・トロ、ジェナ・マローン、マヤ・ルドルフ、
   エリック・ロバーツ、セレナ・スコット=トーマス、マーティン・ショート

評価:★★★★




 一枚のコルクボードがある。ポール・トーマス・アンダーソンはそこに、メモを一枚一枚ピンで留めていく。規則性はない。メモ用紙の色はバラバラで良い。メモとメモが重なっても気にしない。上下逆でも問題ない。破れていてもどうなるわけでもない。そうして『インヒアレント・ヴァイス』は出来上がる。当然形は歪だ。けれどこれが、面白いの何の。

 トマス・ピンチョンの探偵小説の映画化だ。ヒッピー崩れの私立探偵の元にかつて交際していた美女が依頼に来る。不倫相手の妻とその愛人が仕掛けようとしている悪巧みを何とかして欲しいのだという。果たして、探偵は動き出すも、依頼人と不倫相手である富豪が失踪する以外、事件が進展する様子がない。

 アンダーソンは話の筋を作品の軸に置かない賭けに出る。筋は破綻がない程度に存在していてくれれば良い。アンダーソンは代わりに細部に目を凝らす。舞台は1970年のロサンゼルスだ。当時の空気を捕まえる。ネオンサインが下品スレスレに輝く、猥雑で、いかがわしくて、空虚なあの匂い。

 音楽、美術、衣装、照明等が70年代初頭に染まる。60年代という激動の時代を終え、新しい時代に入るまでのふわふわした空気が、肌にまとわりつく。軽薄で、もやもやしていて、掴み所のないそれが、どす黒い何かを取り込んで揺らぎ始める。その奇妙で落ち着かない気分。

 そこに放り込まれる人間たちが、いずれも逞しい。のらりくらりドラッグでトリップしながら右往左往する主人公ドック役のホアキン・フェニックスを中心に、何ともまあ、濃い面子が揃う。一人ひとり主人公として成立しそうなくどさが可笑しい。特にフェニックスといつも何か喰っている(大抵チョコバナナ)のLA刑事ジョシュ・ブローリンが一緒の画面に入るときの電圧が強烈。その画だけで空気が揺れるのが分かる。このふたりに加えて、弁護士役のベニチオ・デル・トロまで入る画もある。ちょっとした眩暈。

 エンドクレジットが流れ始めるときに思う。一体全体2時間半、何を眺めていたのだろう。事件はどうなったんだ。あいつとあいつはどこに消えたんだ。ドックは結局何をしたんだ。頭がちょっとした混乱にハマる。でも不思議と疲労感はない。残るのは心軽やかで愉快な、何かだ。どうやらアンダーソンの技は完璧にキマッたらしい。





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