アメリカン・スナイパー

アメリカン・スナイパー “American Sniper”

監督:クリント・イーストウッド

出演:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、ルーク・グライムス、
   ジェイク・マクドーマン、ケヴィン・レイスズ、コリー・ハードリクト、
   ナヴィド・ネガーバン、カイル・ガルナー、ベン・リード、
   キーア・オドネル、サミー・シーク

評価:★★★★




 主人公クリス・カイルは米史上最強の狙撃手と言われているらしい。公式に認められているだけでも、160人以上もの敵を射殺したという。クリント・イーストウッド監督は160という数字を酷く冷静に見つめる。勲章ではない。誇りではない。名誉ではない。カイル自身もまるで他人事のように、その数字を聞き流す。『アメリカン・スナイパー』は戦争の細胞を抽出する。

 戦争には大義が掲げられる。しかし、イーストウッドがそれに心を預けていないことは明らかで、カイルが不条理に追い込まれる苛烈な状況を淡々と映し出すことで、戦争の実態とそれが人体に及ぼす影響を探る。カイルが最初に狙いを定めるのは子どもだ。そしてその母だ。その彼に無線の言葉が届く。「お前の判断で撃て」。

 イーストウッドが戦争に見ているものは、酷くシンプルだ。それは「殺す」という行為だ。どんなに立派な理由をつけても、殺ししかそこにはない。狙撃手が狙いを定めた先にあるのは命だ。殺すための的を探し続ける。一キロ以上離れたところ狙いをつけることもある。それが何時間も、何日も何年も続いたらどうなるか。

 カイルはイラク戦争に駆り出されて以来、その類稀なる射撃の才能を開花させ、レジェンドと呼ばれるまでになる。ちょっとした有名人だ。仲間たちからの信頼も厚い。けれど、匂うのは孤独だ。兵士たちは互いに助け合って戦下を行く。身を挺して救助にあたることもある。冗談を言い合いもする。信頼もしている。けれど、本当のところで仲間とも分かり合ってはいない。戦争が兵士の体内に送り込む闇の物質は、同じ経験をした者同士でさえも理解を拒否する。イーストウッドは仲間同士の友情だとか家族的な愛情だとか、甘いものに逃げない。

 カイルは英雄ではない。ほとんど戦争の被害者に近いのではないか。戦争という名の手で掴まえることのできない獣は人間の手ではもはや制御不可能かもしれない。カイルの妻は「心は戦場から帰ってきていない」と言う。アメリカに戻ったカイルはその言葉通り、心と身体が切り離される。それが「殺す」ことの代償だ。肉体改造を敢行してカイル役に挑むブラッドリー・クーパーが、その身体にかかった圧力を跳ね返そうと苦しむ様を静かに魅せる。

 イーストウッドの演出は相変わらず、過不足がない。冒頭の初めての狙撃ショットから一転、幼少期のカイルが兵士になるまでを見せる件にはアメリカの病理がちらつくし、それがそのままその後の展開の伏線にもなる。帰国の際に起こる些細な出来事は、カイルの闇を浮上させる材料になる。息詰まるアクション場面は生々しく、カイルが引き金を引く度に強烈な痛みが走る。ヒロイズムが入り込む隙を与えない。それなのにはためく星条旗に何を思うか。矛盾だらけの現実が深く薄ら寒くのしかかる。





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