はじまりのうた

はじまりのうた “Begin Again”

監督:ジョン・カーニー

出演:キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ、アダム・レヴィーン、
   ヘイリー・スタインフェルド、ジェームズ・コーデン、モス・デフ、
   シーロー・グリーン、キャサリン・キーナー

評価:★★★★




 まず、キーラ・ナイトレイの歌声に胸を掴まれる。楽曲は「A Step You Can't Take Back」。ギターを抱えた細い身体から出てくる声は、鳥が鳴くように口ずさんでいる印象で、声量を自慢するしか意味をなさない鬱陶しさ、暑苦しさとは全く無縁。口から出てきた傍から、声が空気に溶けていくみたいだ。繊細で、抱き締めたくなる声だ。

 ジョン・カーニーがこのナイトレイの歌声に惚れたのは当然だ。カーニーは声を装飾することを嫌う。声がこの世で最もデリケートな楽器だと知っているカーニーは、だから、声を声のまま正直に伝えられる女優を選んだ。それがナイトレイだった。

 ナイトレイとマーク・ラファロが出会う場面の見せ方が素晴らしい。オープニング、たっぷり時間をかけて描かれる。まずはステージで弾き語るナイトレイをじっくり撮る。続いて時間はその日の朝に戻り、落ち目の音楽プロデューサーのラファロを見せる。妻と別居、娘とぎくしゃく、レコード会社を解雇される。次々不幸に見舞われるラファロがふと立ち寄ったバー、その場所こそがナイトレイが引き語りするバーだ。つまりナイトレイのステージが間を開けて二回描かれる。二回目はラファロの視点から見るステージになるのだけど、このときラファロにはギター以外にもピアノやヴァイオリンの音が一緒に聴こえてくるのだ。恋に落ちる瞬間だ。なんて素朴で、ドラマティックなのだろう。

 ナイトレイの歌声に惚れこんだラファロがナイトレイにアルバム製作を持ちかける。予算がないがゆえの苦肉の策として出てきたアイデアが、街角でレコーディングするというもので、これが実に楽しく味わい深いのだ。路地裏から始まり(遊んでいる子どもたちがコーラス参加)、公園やアパートの屋上、駅の構内、池のボートの上…。喧騒を味方につけたライヴ感が充実の音を紡いでいく。そう、場所はニューヨークだ。人間たちと一定の距離感を保つ街の佇まいもまた、音を完成させる大切なピースとなる。

 ナイトレイとラファロのコンビネーションに無理がない。アルバム製作の底に、両者共に音楽愛があるのはもちろんだけれど、その上で芸術性と商業性の狭間がさり気なく突かれていく。今の時代、音楽のあるべき姿とは何か。ふたりの姿がそれを知らず知らずの内に語り掛ける。

 『はじまりのうた』はカーニーの音楽という芸術へのラヴレターだ。それは「Lost Stars」なる楽曲の使い方に表れる。物語の中でナイトレイは恋人アダム・レヴィーンに振られる。レヴィーンが他の女と関係を持ったことが原因だ。つまりレヴィーンは憎まれ役になる。その彼がナイトレイと一緒に作った「Lost Stars」をクライマックスで歌う。極めて重要なパフォーマンスになる。憎まれ役のレヴィーンにこの楽曲を歌わせるという、一見理不尽で意表を突いた選択をすることで、全てを美しくまとめ上げる。その鮮やかさは楽曲への愛なくしては実現不可能だったのではないか。音楽愛と共に人間愛も見え隠れしている。





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