メビウス

メビウス “Moebius”

監督:キム・ギドク

出演:イ・ウヌ、チョ・ジェヒョン、ソ・ヨンジュ

評価:★★★★




 ふと思った。宇宙を見た。

 『メビウス』はファーストシーンからして瞼に残る。テーブルに置かれた父(夫)のスマートフォンに愛人から電話がかかる。母(妻)はそれに応えさせないとばかりに奪いにかかる。果たして始まる取っ組み合い。腕が、足が、相手の顔に食い込む。母は肌色のパンツ丸出しだ。戦いに勝利した父は平然と外で愛人との会話に耽る。高校生の息子はそれを冷めた目で見つめる。思わず吹き出す。

 この後母は常軌を逸した行動に出る。夜寝静まった頃、父の男性器をナイフで切り落とそうとして失敗。その後それならばと、何とびっくり、愛する息子のそれを切り落とし、さらには…。そう言えばファーストシーンの母の口元には、ワインの呑み跡が赤い牙のように見えていた。母は生きたまま、バケモノと化す。

 唖然とするしかない奇怪な世界。しかし、キム・ギドクは決して見世物ショーにはしない。男性器にまつわる物語を軸に置きながら、そこに人間というイキモノの理屈や常識では説明不能な何かを忍ばせる。それが彼方此方に転がるがゆえの、慟哭の連打。バケモノはもちろん人間と地続きのところで息をしている。

 ギドクはセリフを排除する。と言っても、何も聞こえないわけではなく、町の音や人間の口から洩れる音は掬い上げられる。呻きや喘ぎ、叫びが、セリフよりも雄弁に人間を語る。セリフの排除により登場人物たちはまるで、皮を剥がれ、生肉を晒しているかのようだ。

 ここでは誰もが嘘をつくことができない。ひりひりと痛みを伴う行動の数々が、時に哀しく、時に可笑しく、時に腹立たしく、いつしかそこは何もない宇宙のようではないか。しかし、その宇宙では身体が解体される。もはやその腕は、その脚は、その顔は自分であって自分ではない。そうして人は再生し、そこを潜り抜けた者だけが、再び息をする。

 俳優が素晴らしい。とりわけ母(妻)と愛人の二役を演じ分けたイ・ウヌ。毛穴から発散される妖気が醜悪で、でもどこか純粋なものを感じさせる。その恐怖。上目遣いのショットの目つきなど、何かがとり憑いているとしか思えない。ギドクが二役を当てた意味も十分分かるというものだ。





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