プレシャス

プレシャス “Precious: Based on the Novel Push by Sapphire”

監督:リー・ダニエルス

出演:ガボーレイ・シディベ、モニーク、ポーラ・パットン、
   マライア・キャリー、シェリー・シェパード、レニー・クラヴィッツ

評価:★★




 人の幸せに上限がないように、人の不幸にも下限はない。『プレシャス』のタイトルロールが置かれている境遇はとにかく厳しい。極度の肥満で読み書きができず、父親からレイプされ妊娠(しかも二人目が腹にいる)、母親からは精神的にも肉体的にも虐待を受けている。序盤であっさり紹介されるこの不幸の連鎖は、しかもこれだけで終わらない。その上、彼女はこれが当たり前だと思っているフシすらある。どこまで彼女を追い詰めるのだ。これだけの不幸だから、放っておいてもドラマが動き出していくという寸法。唖然呆然。

 ただ、ここまで露骨に容赦なく負のファクターを並べ立ててしまうと、見せ方をよっぽどデリケートに工夫しない限り作り物に見えてしまうことを、作り手はもっと自覚するべきだとも思う。なんせ未だかつて見たことのないくらいに生々しい不幸の乱れ打ちである。それを何の躊躇いもなくヒロインに浴びせ掛けるとなると、かえって作り手の意図が透けて見えてしまい、嘘臭さも同時に浮かび上がってくる。いや、ヒロインのような少年少女などいないと言っているのではない。ここまででなくとも似たような境遇の者はいるだろう。ただ、作為が露になることで、観る方が警戒するのだ。そして白けた気分にもなるのだ。

 プレシャスは辛い出来事にぶち当たると空想に逃げる。それも意識的ではなく、本能的にそうしてしまうという解釈。この空想の描写が深刻過ぎる題材とは正反対のポップな味付けになっていて(華麗な衣装を着て、カラフルな照明を浴びて、歌い踊るのが基本)、本来ならばホッとしたり笑ったりするところなのだけど、あまりにも現実の方が悲惨であるために、憐れみを強くするばかりとは、これいかに。生きていく強さだとか這い上がる逞しさだとかがもっと複雑に絡まり合った何かを見せたかったはずに違いないのに、案外見方が制限される。

 …というわけで、全編を通して、なんともまあ、冷静に観てしまった。意外なほどにプレシャスはオシャレだという外見的事実に過剰に目が行ってしまうくらいに。決して高い服を着ているわけでもないのだけれど、コーディネートのセンスがよろしく、体型に合わせた崩し方も心得ている。アクセサリーも積極的に取り入れているし、ヘアアレンジも案外多彩だ。演じるガボーレイ・シディベ本人が持っている愛敬がアクセントになっているのかもしれない。

 演技に関しても、のめり込んで観るというよりは感心しながら観るという分析的な見方になってしまった。とは言え、そういう薄情な意見を吹き飛ばす力強さがあったのは頼もしいと言うか何と言うか。この役のために生まれてきたとしか思えないシディベは、当然のように顔の肉も厚く、それゆえ感情がなかなか表情として浮かび上がらないのが、恐ろしくリアル。鬼すらも負ける冷徹な母親役のモニークの、絶妙に緩急のついた存在感も強烈で、終幕の独白の件では、映画を自分のものに変えてしまうほどの勢いだ。演技とは思えない。

 おそらくバランスがほんのちょっとズレている映画なのだろう。でも、そのズレが大いに引っ掛かる。掲げられるメッセージまでもが、作り物に見えてくるのは厳しいところだ。





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