シングルマン

シングルマン “A Single Man”

監督:トム・フォード

出演:コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、マシュー・グード、
   ニコラス・ホルト、ジョン・コルタハレナ、ジニファー・グッドウィン

評価:★★★★




 あのトム・フォードが監督を務めているのだから、ファッションが面白くないわけがない。…と言っても、奇を衒ったものにはなっていない。1962年という時代を映し出した、趣味の良い衣装が次々出てくる。普通男が中心となった映画では服装になどほとんど目が行かないものだけれど、フォードは生活の中に溶け込んだ何気ないそれを品良く撮り上げているから注目だ。中盤、ジュリアン・ムーアが着る黒と白のドレスも見事なインパクト。

 フォードが抜きん出ているのはファッション性だけではない。画面を緻密に設計していく。寸分も狂いのない構図が印象的で、映し出される画がイチイチ心に残る。衣装と同じく、時代に沿った家具や小物が的確に配置され、そこに人物を放り込むことで、絵画的な面白さを発散しているのだ。画面の色合いで実験色を強くしているのにも惹かれる。60年代の雰囲気が濃厚な褪せた色合いがベースなのだけど、それが自在に変化していく。もちろん闇雲には変化しない。しかも、絵ハガキではない。妙に色っぽい。

 さらにフォードは、動きのつけ方も優れている。映画は人間を描く芸術で、それゆえ動きがつく。そこにまで徹底した美学が感じられる。例えば、主人公が車に乗って大学に向かう場面。車窓から近所の子どもたちを見つめながら出かけて行く際のカメラワークは、スローモーションや音楽の使い方も含めて、なんともまあ独創的。言葉も交わさない、たったそれだけの描写で、主人公の揺れを見せてしまうのだ。

 尤も、以上の要素は映画の土台だ。そう、土台の上で物語を語ってこそ、映画だ。その中心にいるのはコリン・ファースで、間違いなくキャリアベストの演技で魅了する。いかにも英国紳士らしい佇まいと身のこなし。ゲイ色を前面に押し出すことなく、「生きていることにゾッとしている」男が醸し出す、哀しみと躊躇いを体現する。ファースの素晴らしさは冒頭だけでも明らかだ。16年間連れ添った恋人が事故死したことを電話越しに知らされる場面の表情の変化など、人生経験の浅いだろう若い役者には到底表現し得ないものだ。

 『シングルマン』はたった一日の物語だ。しかも、特別な日なんかではない。恋人を亡くしてもう随分経つのに消えない哀しみを背負った男は、翌朝までに死ぬことを決意しているものの、身辺整理をしながら、それでもいつも通りの日常を過ごす。描かれるのはいたって普通の出来事。それにも関わらず、喪失感と絶望、そしてそこからの僅かな再生の光が、静かに揺らめきながら立ち上がってくるのが不思議だ。しかも、生きているがゆえの香りを濃厚に湛えて。人生は美しい、そんな常套句が、嫌味なく溶け出してくる。

 映画は画で語る芸術だということを改めて思い出させてくれる作品。フォードのこだわり(芸術へのこだわりではなく、生きていくこだわり)が、題材と奇跡的なマッチングを見せた傑作と言えよう。





blogram投票ボタン

ブログパーツ

スポンサーサイト



テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

プロフィール

Author:Yoshi
Planet Board(掲示板)

旧FILM PLANET

OSCAR PLANET




since April 4, 2000

バナー
FILM PLANET バナー

人気ページ<月別>
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
最新トラックバック
QRコード
QRコード
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

Friends
福☆こもろ