セルフィッシュ・サマー

セルフィッシュ・サマー “Prince Avalanche”

監督:デヴィッド・ゴードン・グリーン

出演:ポール・ラッド、エミール・ハーシュ、ランス・ルゴール、
   ジョイス・ペイン、ジーナ・グランデ

評価:★★★




 タイプの異なる男ふたりの珍道中を描く映画は珍しくない。大抵は何度も衝突を繰り返し、次第に心の内を曝け出し、分かり合い、それなりのゴールに辿り着く。『セルフィッシュ・サマー』も例に漏れない作品だ。けれど、ばっさり斬り捨てられない。何かが妙に心に引っ掛かる。珍道中が翳りを帯びている。

 背景となるのは1988年、前年に1,600棟が消失し、4名が死んだ山火事を経験したテキサスの森の中。主人公ふたりは夏の間、道路の修復作業をしている。杭を打ち、黄色いペンキで車線を引き…の単純作業の繰り返し。夜になっても街には帰らない、ちょっとしたキャンプ。森にテントを張って眠るのだ。森なのに緑がないという、人間で言えば服を脱ぎ去り全裸に近い状態の森で、ふたりは本当の自分と向き合わざるを得なくなる。

 ふたりの容姿が面白い。ポール・ラッドはオッサン体型にヒゲを蓄え、メガネをかけると、マリオの失敗作みたい。街に残してきた恋人を想って手紙を書くのが日課だ。エミール・ハーシュは四六時中女のことを考えているタイプ。それを恥じ入らず、バカさを隠さないのがいっそ気持ち良い。全然違うふたりを繋げるのはサロペットだ。作業着となるそれが、ふたりの心を擦り合わせる。サロペットなふたりが途端に哀愁をまとい始める。

 盛り上がりそうで盛り上がらない衝突の数々は…おそらく狙いなのだろう。オフビートな笑いを目指しているはずだ。ただ、それだけでは画面が平坦になる。それを回避するのが、山火事後の森の姿だ。言わば山は、火傷跡を残した状態だ。しかし、それは確実に再生へと向かっている。ふたりの修復作業もそうだし、他にも雨音や枯れ葉、湿り気のある空気、僅かに見える緑、小さな花、柔らかな日差し、鳥の羽ばたき、自然の音が、地味ながら思いがけない情感を生む。

 ラッドは孤独を愛していると語りながら、実は誰よりも臆病な自分に直面する。ハーシュは女好きの純情が弱さと直結していることを自覚し、責任というものを学ばざるを得なくなる。要はふたりとも、クズなのだ。自分を見つめられないクズなのだ。けれど、だから何だというのだ。人間なんて、誰も彼もクズだろう。それに気づいて前に進めば良いことではないか。そうやってふたりの肩を叩くような、ささやかなエピソードの積み重ねが不思議と心地良い。

 ラッドとハーシュは新たなる週末に向かって車を走らせる。そこに辿り着く心の旅が、そのまま山火事で失われたものへの鎮魂にも葬送にもなっている。そうか、男ふたりはどちらも山と同じように、火傷を負っていたのだろう。傷痕を冷やし、薬を塗り、かさぶたになり、それが剥がれていく。傷が突然治ることはない。時間をかけて静かな歩みで快方へと向かう。デヴィッド・ゴードン・グリーンの彼らを見つめる目は、冷静で優しい。





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