コンプライアンス 服従の心理

コンプライアンス 服従の心理 “Compliance”

監督:クレイグ・ゾベル

出演:ドリーマ・ウォーカー、アン・ダウド、パット・ヒーリー、
   ビル・キャンプ、フィリップ・エッティンガー

評価:★★★




 お世辞にも旨そうには見えないファストフード店に電話が入る。警察だと名乗る男が、若い女性従業員に窃盗容疑がかかっていることを告げる。男は女店長に捜査協力を要請。電話越しの指示により、若い女が丸裸され、屈辱的なポーズを取らされ、さらには性的暴行まで受けることになる。何と実話だというからひっくり返る。それも一軒や二軒ではない。アメリカで数百件も起こったというからびっくり仰天。映画はマクドナルドで起こった事件を基にしているとのことだけれど、こうなるとマクドナルドだけの問題ではないことは明白だ。痴漢冤罪事件や母さん助けて詐欺にも通じるところがある。

 登場人物の愚かさが目につく『コンプライアンス 服従の心理』はしかし、それを強調したいだけではない。卑劣な犯罪行為の糾弾が第一目的でもない。現実に起こってしまった事件を通して、人間はある種の状況下においては驚くべき行動に走ることを描き出す。彼らは特別な人間ではない。我々の分身であることを強調する。

 おそらく犯人は、何軒もの店に電話をかけたはずだ。そして多くは取り合われることなく切られただろう。ではなぜ、この店では犯人の思惑通りに事が進んだのか。店長の心理状態を中心に、さり気なくその理由が散りばめられている。前日に起こった仕事のミス。誰のミスなのか、特定できていないもやもや。朝から忙しく余裕のない金曜日。彼女には心にゆとりがなく、そればかりか、ミスの挽回やスムーズな仕事を意識した動揺に支配されている。副店長や容疑のかかった女とのやりとりからすると、若い女へのやっかみや嫉妬に似た何かも抱いていたようだ。そこに放り込まれるのが「警察」という言葉。どうやら「本部」も協力しているらしい。店長の心の隙間が、魔法の言葉により埋められ、彼女は思いがけない怪物に変身する。

 ここに見えるのは、人は組織の中で権力を持った者や法律が身近にある者に弱いという現実だ。自分では意識していなくても、いつしかそういう社会の一部になっている。店長が圧力に屈する様が最も分かりやすいものの、被害者となる女や店長をサポートする副店長、女の男友達や店長のフィアンセらもまた、同じような心理状態。被害者がなぜ「捜査」に屈したのか、それは店長と大差ない理由だろう。

 クレイグ・ゾベル監督は特定の状況に置かれた者たちの言動を観察するような視線を保っている。それゆえ選ばれたのが、ドキュメンタリーを思わせる演出だ。意図するところは分かるものの、犯人の手口があまりに簡単に成功していくあたりは、テレビ番組の再現映像でも見せられている気分になる。おかげで店長を中心に、その愚かさが必要以上に目立っている。ここは思い切って、映画的な装飾を大胆に取り入れても面白かったのではないか。

 そう思ったのは、映画的な展開に転がりそうな箇所がいくつか見受けられたからだ。犯行に使われたプリペイドカードをめぐるサスペンス、男友達や婚約者の投入、事件後のインタヴュー…。事件の全容が明らかになった後、当然のように変わってしまった人間関係をじっくり描くのも面白いだろう。犯人の思うように進む様ばかりを見せられるのは不快であることに、作り手が敏感になっていない気配がちらほら。

 店長を演じるアン・ダウドが強烈な印象だ。犯人に愚かに操られる店長の善人性とそれゆえの恐ろしさを、生活感たっぷりの身体の中に大きく膨らませていく。状況次第では犯人の手口を早々に見破ったに違いない賢さと危うさを、苛立ちを隠せない眼差しに封じ込める。研ナオコ100年前のような容姿のドリーマ・ウォーカーがいつしか、店長の奴隷のように見えてくる。





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